名前のない定理

マニアックな数学

計量スプーンとペル方程式(数学)1


次のような問題を考えましょう.

問題「半球状の計量スプーンがある.これに砂糖を擦切りいっぱいで入れる.この砂糖を半分捨て残った半分を平らに均して,砂糖の作る平面が球の切断面と平行になるようにする.このとき砂糖の深さはいくらか?」

私はこの問題がロープを使えば作図可能であることを示しました.

最初にロープを使えば何が作図できるか考えます.ロープを円周に巻き付け,それを等分することで2\pin等分が作図できます.これをもう一度円に巻き付ければ\cos\sinが作図できます.ここから\cos\left( \dfrac{m}{n}\pi \right)などが作図可能であることが分かります.

最初の問題を解いていきましょう.半球の半径をRとし,求める深さをXとします.深さがhの切断面の面積が\pi(R^2-h^2)であることから,体積を積分で表記できます.半球の体積の半分は\dfrac{\pi R^3}{3}なので,
\int_{0}^{X} \pi (R^2 - h^2)dh = \dfrac{\pi R^3}{3}
であることが分かります.
これを計算するとXは方程式X^3 - 3R^2 X + R^3 = 0を満たすことが分かります.

X = Rxと新しく未知数xを設定すると,問題はx^3 - 3x + 1 = 0を解くことになります.三次方程式を解くためにx = u+ vと置き,u,vを求めて行きます.x^3 - 3x + 1 = 0に代入すると,(u^3 + v^3 +1) +(u+v)(3uv-3) = 0となり,u^3 + v^3 = -1,uv = 1ならOKです.u^3 + v^3 = -1 , u^3 v^3 = 1なので,u^3,v^3二次方程式t^2 + t + 1 = 0の二つの根になります.これを解いてt = \exp \left( \dfrac{2 \pi}{3} i \right)となります.これでu,vが求まり,x = 2 \cos \left( \dfrac{2 \pi}{9} \right) , x = 2 \cos \left( \dfrac{8 \pi}{9} \right) , x = \cos \left( \dfrac{14 \pi }{9} \right)となります.


この中で 0 \leq X \leq Rとなるのは,\cos \left( \dfrac{14 \pi}{9} \right)Rだけです.よってこれが砂糖の問題の答えになり,ロープを使えば作図可能であることが分かりました.

二等分のときはうまくロープで作図できることが分かりました.この問題をN等分に一般化したとき,ロープで作図可能なNは何になるのでしょうか?実はここにペル方程式が登場します.(次回に続く)

はんじょうのケーキ三等分問題(数学)4

前回までの記事で
box-white.hatenablog.com
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個性的な方法(円周の一点から放射状に切る)でケーキを三等分することを考えてきました.今回は一般の自然数Nに対してN等分することを考えます.

結論を先に言うと,ロープを使えばN等分が作図可能であることが示せます.早速証明していきましょう.

Nが奇数のときを考えます.円(x-1)^2 + y^2 = 1を書きます.x軸と直線OBに囲まれた部分の面積を考えます.この部分の面積を\dfrac{\pi}{2N}にできれば,N等分の中央にある一片の半分が得られます.この部分の面積を\dfrac{3\pi}{2N}にできれば,N等分の中央にある一片の半分と,もう一人分のケーキができます.以下これを考えていくと,2n+1 \leq Nなる任意の自然数に対して,この部分の面積を\dfrac{(2n+1)\pi}{2N}にすることができればケーキをN等分できることが分かります.

この部分の面積をグリーンの定理で求めて行きましょう.原点を通る直線に対する線積分\int x dy - y dx0になることが分かるので,円周部分の線積分\dfrac{1}{2} \int x dy - y dxを求めればそれが面積になります.円の中心角\thetaでパラメータ付けします.x = 1 + \cos (\theta),y = \sin(\theta)となります.角AOB\theta_Bとして線積分を計算すると
\dfrac{1}{2} \int x dy - y dx
 = \dfrac{1}{2} \int_{0}^{\theta_B} ( \cos (\theta) + 1) \cos (\theta) + \sin(\theta) \sin(\theta) d \theta
 = \dfrac{1}{2} \int_{0}^{\theta_B} \cos(\theta) + 1 d \theta
 = \dfrac{1}{2} (\sin(\theta_B) + \theta_B)
となり,これが面積になります.面積が\dfrac{(2n+1) \pi}{2N}に等しいので,中心角\theta_B
\theta_B + \sin (\theta_B) = \dfrac{(2n+1)\pi}{N}
となります.

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で示したように,\theta_B + \sin(\theta_B) = r \pi(r有理数)は作図可能です.よってロープを使えばケーキをN等分できることが分かりました.

偶数のNに対しても同じことができます.

はんじょうのケーキ三等分問題(数学)3

ケーキを三等分するときに用いる「はんじょう角」に新しい性質が見つかったので投稿します.

box-white.hatenablog.com

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「はんじょう角」を\thetaとすると,\sin(\theta) + \theta = \dfrac{\pi}{3}という性質がありました.今回紹介するのは次の定理です.

定理
「はんじょう角」は円周率\pi有理数倍ではない.

証明に入る前に補題を用意します.

補題
\sin(n\theta) はある整数係数多項式A_n(x),B_n(x)を用いて\sin(n\theta) = A_n(\sin(\theta)) + \cos(\theta) B_n(\sin(\theta))と表現することができる.

(補題の証明)
\cos(n \theta) = E_n(\sin(\theta)) + \cos(\theta) F_n(\sin(\theta))として,A_n,B_n,E_n,F_nをまとめて考える.n = 1のときA_1(x) = x , B_1(x) = 0, E_1(x) = 0 , F_1(x) = 1と置けばよい.nについて補題が正しいとする.
\sin(n+1)\theta = \sin(n \theta) \cos(\theta) + \cos(n\theta)\sin(\theta)
\sin(n\theta) = A_n(\sin(\theta) )+ \cos(\theta)B_n(\sin(\theta))などを代入し,\cos^2(\theta) = 1 - \sin^2(\theta)を使って変形すると,
A_{n+1}(x) = (1-x^2)B_n(x) + x E_n(x) , B_{n+1}(x) = x F_n(x) + A_n(x)
となる.\cos(n+1)\thetaについても同様の議論を行い,
E_{n+1}(x) = (1-x^2)F_n(x) - A_n(x)x , F_{n+1}(x) = E_n(x) - B_n(x)x
が分かる.数学的帰納法を用いれば補題が証明できる.

補題2:
nが偶数のとき,A_n(x) = 0,nが奇数のとき,B_n(x) = 0

証明は簡単な数学的帰納法による.

定理を証明しましょう.
「はんじょう角」は\sin(\theta) + \theta = \dfrac{\pi}{3}を満足する.よって\theta\pi有理数倍なら\sin(\theta)\pi有理数倍.また\theta\pi有理数倍ならある自然数nが存在し,\sin(n \theta) = 0となる.
nの偶奇で場合分けをし,どちらの場合も不可能であることを示す.
nが偶数のとき,二つの補題から,\sin(n \theta) = B_n(\sin(\theta)) \cos(\theta) = 0が成り立つ.\cos(\theta) \neq 0なので,B_n(\sin(\theta)) = 0が成り立つ.\sin(\theta)\pi有理数倍なので,\piはある有理係数多項式の根となるが,これは\pi超越数であることに矛盾.
nが奇数のとき,二つの補題から,\sin(n \theta) = A_n(\sin(\theta)) = 0が成り立つ.再び\piがある有理係数多項式の根となるが,これは\pi超越数であることに矛盾.
従って「はんじょう角」は円周率\pi有理数倍ではないことが示された.(証明終わり)

はんじょうのケーキ三等分問題(数学)2

前回の記事
box-white.hatenablog.com
ではんじょうさんのケーキ三等分問題はロープを使えば解決できることを示しました.今回は別の方法でケーキを三等分することを考えます.

その前にはんじょうさんのようにケーキを三等分するときの角度を「はんじょう角」と呼ぶことにします.「はんじょう角」を\thetaとすると, \sin (\theta) + \theta = \dfrac{\pi}{3}という性質がありました.

今回は次のように縦に三等分することを考えます.

hanjou2_1

hanjou2_2

このとき角AOBは「はんじょう角」に等しいことが示せます.

hanjou2_3

真ん中の部分の面積は三角形OBDと扇形OABの和を二倍したものです.よって三角形OBDと扇形OABの面積は\dfrac{\pi}{6}となります.

AOB\tauとします.扇形OABの面積は\dfrac{\tau}{2}です.三角形OBDの面積は\sin\left( \dfrac{\tau}{2} \right) \cos \left( \dfrac{\tau}{2} \right)となります.これは\dfrac{1}{2} \sin(\tau)と変形できます.よって角度\tauは式
 \dfrac{\tau}{2} + \dfrac{1}{2} \sin(\tau) = \dfrac{\pi}{6}を満たします.よって\tau + \sin(\tau) = \dfrac{\pi}{3}となって\tauが「はんじょう角」と等しいことが示せました.

最後に作図方法を考えてみましょう.前回の作図ができたものとして進めます.

hanjou1
中心OからNPNQに平行な直線を引き,円との交点を求めます.
hanjou2_4
二つの交点をA,Bとします.

A,BからONに平行な直線を書けば,ケーキを三等分できます.(ちょっと図が悪いのはご了承ください.)

「はんじょう角」にはこのような不思議な性質があることが分かりました.

三乗数の四つの和

3^3+4^3+5^3= 6^3です.連続する整数がこのような関係にあるだけで面白いといえるのですが,今回はここから発展させて新しい等式を導いていきましょう.目標は263^3 + 363^3 + 907^3 = 933^3です.

第一の式を書き変えて,3^3+ 4^3 + 5^3 + (-6)^3 = 0とします.s,tの方程式
(3s + 4t)^3 + (4s + 5t)^3 + (5s - 6t)^3 +(-6s + 3t)^3 = 0
を考えていきます.s^3,t^3の係数はどちらも3^3 + 4^3 + 5^3 + (-6)^3 = 0より0となります.よってこの方程式は
(3^2 \cdot 4 + 4^2 \cdot 5 + 5^2 \cdot (-6) + (-6)^2 \cdot 3) s^2 t \\ +(3 \cdot 4^2 + 4 \cdot 5^2 + 5 \cdot (-6)^2 + (-6) \cdot 3^2) st^2 = 0
となります. 係数を計算して,stで割ってやると74s+ 274 t = 0となります.2で割ってやると,37s + 137t = 0となり,この方程式はs = 137 , t = -37を解に持つことが分かります.

この値を(3s + 4t)^3 + (4s + 5t)^3 + (5s -6t)^3 +(-6s + 3t)^3に代入すれば,等式263^3 + 363^3 + 907^3 = 933^3が得られます.

次回はラマヌジャン恒等式(6s^2 -4st + 4t^2)^3 = \\ (3s^2+5st-5t^2)^3 +(4s^2 - 4st + 6t^2)^3 + (5s^2 - 5st -3t^2)^3
を導きます.手品のタネは今回と同種のものが一つと係数の選択の対称性です.最後までお読みいただきありがとうございました.

はんじょうのケーキ三等分問題(数学)


皆さんはゲーム実況者として活躍されている「はんじょう」という方をご存じでしょうか.彼はある日の配信でケーキを次のように三等分することを提案しました.
hanjou1

このように三等分するには,角PNQを上手に定める必要があります.今回私はロープを使えばこの三等分が作図可能であることを証明しました.先行研究として数学ボーイZさんの「東大数学科院生がはんじょうさんによるケーキの3等分を解説します」という動画がYOUTUBEに上がっているのでそちらも参照してください.

PNQ\thetaとして表し,\thetaが満足する等式を導きます.

hanjou2

Oを円の中心とし円の半径を1とします.ケーキを三等分することは,弦PNで切り取った部分の面積が\dfrac{\pi}{3}であることを意味します.この部分は扇形PONから三角形PONを除いたものになります.よって扇形と三角形の面積を求めればよいことが分かります.

PNO\dfrac{1}{2}\thetaなので中心角PON\pi - \thetaとなります.よって扇形PONの面積は\dfrac{\pi - \theta}{2}となります.

三角形PNOの面積は底辺が2 \cos (\frac{\theta}{2} )で高さが\sin ( \frac{\theta}{2})であるので,\cos(\frac{\theta}{2})\sin(\frac{\theta}{2}) = \dfrac{1}{2} \sin (\theta)となります.

以上から切り取った部分の面積は\dfrac{\pi - \theta}{2} - \dfrac{1}{2} \sin (\theta)となります.これが三等分\dfrac{\pi}{3}と等しいことから,等号で二つを結ぶことができて,整理すると角度\theta
\dfrac{1}{2}( \sin (\theta) + \theta) - \dfrac{\pi}{6} = 0
を満たすことが分かりました.

さて弧PQと弦PQに注目します.中心角の定理から,角POQ2\thetaとなり,弧PQと弦PQの長さはそれぞれ2\theta,2\sin(\theta)となります.両者の和を取って,\thetaの関係式を使うと,弧PQと弦PQの長さの和は\dfrac{2 \pi}{3}となります.これを用いて作図していきましょう.

hanjou3

円の中心Oを作図することは既知とします.円にロープを巻き付け三等分すると,その長さは\dfrac{2\pi}{3}になります.セロハンテープ等を使い,この長さの輪を作ります.輪の一部分を円周に沿わせていき,弦がピンと張るようにします.このときの輪の両端点をP,Qとし,円弧PQの中点をMとします.中点は定規とコンパスでも作図可能です.

中点Mと円の中心Oを直線で結び,この直線と円が交わるもう一方の点をNとします.このときPNQはちょうどケーキを三等分します.(作図終わり)

コンパスと定規を用いた作図問題はよく知られていますが,そこにロープを加えるだけで面白い数学ができそうです.

自由研究 グレブナー基底と仮想次元2

前回の記事の続きです.
box-white.hatenablog.com

前回の記事で次のような問題が提示されました.
問3:イデアルIの生成元を適切に選んで,仮想次元\sigmaに整合的にすることはできるか?

答えは簡単で被約グレブナー基底をつくれば,そのような仮想次元\sigmaをすべて求めることができます.
定理:仮想次元\sigmaを性質AイデアルIの生成元を適当に選べば,仮想次元\sigmaに対して整合的になる」を満たすものとする.このときIの被約グレブナー基底は仮想次元\sigmaに対して整合的である.すなわち性質Aを持つような仮想次元をすべて求めることができる.
証明:性質Aの生成元をとり,そこからイデアルIの被約グレブナー基底を作ると,それは\sigmaに対して整合的である.(証明終わり)

さらに次の定理も成り立ちます.
定理:ある単項式順序に関するイデアルIの被約グレブナー基底g_1,\ldots,g_sとする.別の単項式順序に関するイデアルIの被約グレブナー基底g'_1,\ldots,g'_tとする.もし仮想次元\sigmag_1,\ldots,g_sに対して整合的ならば,g'_1,\ldots,g'_tに対しても整合的である.

証明:グレブナー基底g'_1,\ldots,g'_tg_1,\ldots,g_sから作ることができる.g_1,\ldots,g_sは仮想次元\sigmaに対して整合的であるから,g'_1,\ldots,g'_tも整合的である.(証明終わり)

この定理から仮想次元\sigmaが被約グレブナー基底に対して整合的であるという性質は,単項式順序によらない性質だと分かりました.さらに被約グレブナー基底は単項式順序に関して一意なので,被約グレブナー基底が仮想次元\sigmaに対して整合的であることはイデアルIの選択だけに依存する性質になります.そこで次のような定義が成立します.

定義:イデアルIが物理イデアルであるとは,その被約グレブナー基底が仮想次元\sigmaに対して整合的であることとする.

この物理イデアルは様々な推移法則を満たします.

定理:I,Jを仮想次元\sigmaに対する物理イデアルとする.このとき
(i)和I+J\sigmaに対する物理イデアル.
(ii)積IJ\sigmaに対する物理イデアル.
(iii)交わりI \cap J\sigmaに対する物理イデアル

証明:I,Jが物理イデアルなので,仮想次元\sigmaに整合的な生成系f_1,\ldots,f_r,g_1,\ldots,g_sを取ることができる.I+Jの生成系としてf_1,\ldots,f_r,g_1,\ldots,g_sを取ることができる.これは明らかに仮想次元\sigmaに対して整合的なので,被約グレブナー基底\sigmaに対して整合的.(i)の証明が終わった.(ii)の証明も同様.
I \cap Jグレブナー基底tf_1,\ldots,tf_r,(1-t)g_1,\ldots,(1-t)g_sグレブナー基底のうちtを含まないもの.今tを無次元量ととらえることでtf_1,\ldots,tf_r,(1-t)g_1,\ldots,(1-t)g_sは仮想次元\sigmaに対して整合的.それゆえ出来上がるグレブナー基底\sigmaに対して整合的.(証明終わり)

なんだかよくわからない概念が定義できました.

2023/4/21追記
このイデアルには重み付き斉次イデアルという名前がついていることが分かりました.