名前のない定理

マニアックな数学

謎の自由研究 グレブナー基底と仮想次元

グレブナー基底の教科書[1]の中にある次の記述が気になりました.p144
イデアルIを三つの多項式x^{n+1}-yz^{n-1}w,xy^{n-1}-z^n,x^n z-y^n wで生成されるイデアルとする.このときIの被約グレブナー基底のうちにはz^{n^2+1}-y^{n^2}wが含まれる.

残念ながらこの元の論文にアクセスすることはできませんでした.そこでこの記述の証明ができないか考えているうちに仮想次元の方法とも呼ぶべきアイデアに達しました.この方法をつかえばグレブナー基底をよりよく理解することができると思います.

x,y,z,wの文字一つ一つを架空の物理量だと思って,架空の単位を付与します.例えばxにはkgだとかyにはkg^2だとかなどです.ここで単位はあくまで仮に与えるだけであって,何か物理的な意味を持つわけではありません.これを仮想次元と呼ぶことにします.

これだけでは無意味なので次の定義をします.
定義1:多項式fが仮想次元\sigmaに対して整合的であるとは,fの単項式の次元がすべて等しいことを言う.
例1:多項式f = x^2+yを考える.もしx,yにそれぞれkg,kgの仮想次元を付与したとき,fは整合的ではない.ところがx,yにそれぞれkg,kg^2の次元を付与したとき,fは整合的になる.

このとき次の定理が成り立ちます.
定理2:イデアルIの定義方程式の一つをf_1,\ldots,f_rとする.仮想次元\sigmaに対してすべての多項式f_1,\ldots,f_rが整合的であるとき,イデアルIグレブナー基底は仮想次元\sigmaに対して整合的である.
証明:グレブナー基底の作り方から,S多項式S(f_1,f_2)を作るプロセスにおいて仮想次元は再び整合的であること,および割り算アルゴリズムを用いたときも仮想次元は再び整合的であることを示せばよい.
f_1,f_2を仮想次元\sigmaに対して整合的な多項式とする.S多項式S(f_1,f_2)はある単項式x^{\alpha_1},x^{\alpha_2}を用いて
x^{\alpha_1} f_1 - x^{\alpha_2} f_2と表される.ここで二つの多項式x^{\alpha_1} f_1,x^{\alpha_2}f_2は仮想次元\sigmaに対して整合的である.さらにS多項式の作り方からこの二つの多項式は少なくとも一つの単項式を共有する.従って結果として得られる多項式は仮想次元\sigmaに対して整合的である.
f_1f_2で割り算アルゴリズムした結果も同じ理由で整合的である.これで証明は終わった.

この定理2はグレブナー基底の形についての制約となります.

最初の例に戻ります.イデアルIを三つの多項式x^{n+1} - yz^{n-1}w,xy^{n-1} - z^n,x^n z - y^n wで定義されるイデアルとする.
このとき次の二つの問題を提起することができます.
問1:この三つの多項式に整合するような仮想次元は全部で何種類あるか?
問2:そのような仮想次元に対して整合的なグレブナー基底はどんなものか?
一つ一つ解決していきます.
解答1:次元の性質から一つの単位の次数のみを考えればよい.,x,y,z,wの仮想次元の次数をそれぞれa,b,c,dとする.三つの多項式から三つの連立一次方程式が得られる.行列の形で書くと以下の通り.
\left( \begin{array}{cccc} n+1 & -1 & -n+1 & -1 \\ 1 & n-1 & -n & 0 \\ n&-n & 1 & -1 \end{array} \right)
\left( \begin{array}{c} a \\ b \\ c \\ d \end{array} \right) = 
\left(\begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ 0 \end{array} \right)
これを解くと
\left( \begin{array}{c} a \\ b \\ c \\ d \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{c} -n+1 \\ 1 \\ 0 \\ -n^2 \end{array} \right)
 + l \left( \begin{array}{c} n \\ 0 \\ 1 \\ n^2+1 \end{array} \right)
となります.ここでk,lは任意の整数です.これで問1に答えることができました.

解答2:グレブナー基底の一つをg_1とする.g_1から任意に一つ単項式を選び,それで全体を割ると,それぞれの単項式は無次元量となる.従って無次元量となるような単項式の次数x^{\alpha} y^{\beta} z^{\gamma} w^{\delta}を求めればよい.
上の二つの独立量に対して無次元量となるような指数は,同様の連立方程式を解いて
\left( \begin{array}{c} \alpha \\ \beta \\ \gamma \\ \delta \end{array} \right) = p \left( \begin{array}{c} 1 \\ n-1 \\ -n \\ 0 \end{array} \right) + q \left( \begin{array}{c} 0 \\ n^2 \\ -(n^2+1) \\ 1 \end{array} \right)
となる.これがグレブナー基底に関する制約となる.

またイデアルIは二項イデアルなので,グレブナー基底も二項イデアルとなります.従ってもしグレブナー基底に文字xが登場しないものがあるとすればz^{s(n^2+1)} - y^{sn^2} w^s(ここでsは任意の自然数)の形をしていることが明らかになりました.これらはすべてz^{n^2+1} - y^{n^2} wで割り切れるので被約グレブナー基底の中にこの多項式が出てくることが分かります.

このようなテクニックが開発されました.このテクニックはイデアルの定義方程式の形に依存します.例えばf_1,f_2,f_3のそれぞれに対して整合的な仮想次元\sigmaがあってもf_1,f_2,f_3+f_1とすると整合的ではなくなるかもしれません.

そこで次のような問題が立ちます.
問3:イデアルIの定義方程式をうまいこと改良して,より多くの仮想次元\sigmaが整合的になるようにせよ.
この問題を考えているうちに,「物理イデアル」ともいうべき新しい対象を発見しました.

記事が長くなってきたので分割します.

参考文献[1]D.コックス,J.リトル,D.オシー 「グレブナー基底代数多様体入門」 丸善出版

自由研究 ヒルベルトの数論報告を読む #11

今回の記事は個人的メモみたいなものです.

\mathbb{Q}(\sqrt{-5})イデアル(7,2+3\sqrt{-5})の基底を求める.このとき生成元が二つあるからと言ってこれ自体がイデアルの基底になるわけではない.

box-white.hatenablog.com
で説明した方法で基底を求める.

整数環の整基底は1,\sqrt{-5}なので,これを7,2+3\sqrt{-5}にそれぞれ乗じる.7,7\sqrt{-5},2+3\sqrt{-5},-15+2\sqrt{-5}の四つの数が得られる.ここから係数を拾い出し行列を作る.
\left( \begin{array}{cccc} 7 & 0 & 2 & -15 \\ 0 & 7 & 3 & 2 \end{array} \right)
列の基本変形を繰り返すと次の行列に簡約化される.
\left( \begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ -2 & 7 & 0 & 0 \end{array} \right)
従ってイデアルIの基底は1 - 2 \sqrt{-5},7\sqrt{-5}の二数からなる.

a + b\sqrt{-5}イデアルIに属する条件を求める.a + b \sqrt{-5}1-2\sqrt{-5},7\sqrt{-5}の線形結合で表したとき,係数が整数であることが必要十分条件.従って
\left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ -2 & 7 \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} a \\ b \end{array} \right)
が整数解x,yを持つことと同値.

ここから逆行列をかけてやることでa + b \sqrt{-5} \in I \iff 2a + b \equiv 0 \pmod{7}であることが分かる.

tan(x) = xの根について3

前回の記事
box-white.hatenablog.com
\tan(x) = xの正の根の無限級数を求めました.ここでは別角度から問題に迫ってみましょう.アダマール因数分解定理を既知とします.

まず,次の二つの補題を証明します.

補題1
複素変数の方程式z \cos(z) - \sin(z) = 0の解は実軸の上にしかない.
証明:z\cos(z) - \sin(z) = 0を指数関数を用いて表現しなおす.
z \dfrac{e^{iz} + e^{-iz}}{2} - \dfrac{e^{iz} - e^{-iz}}{2i} = 0
分母を払ってe^{iz}を乗じ,変形していくことで
(z+i)e^{2iz} =-(z-i)
となる.
e^{2iz} = \dfrac{i-z}{i+z}とし,両辺の絶対値を取る.z = x + iyと置く.x,yは実数である.すると
e^{-2y} = \dfrac{x^2+(y-1)^2}{x^2+(y+1)^2}
となる.絶対値を取る前の等式から
e^{-2y} \cos(2x) = \dfrac{1-x^2-y^2}{x^2 + (y+1)^2}
e^{-2y}\sin(2x) = \dfrac{2x}{x^2+(y+1)^2}
となる.この二つの方程式をそれぞれ二乗し,足し合わせる.\cos^2(2x)  + \sin^2(2x) = 1より,
e^{-4y} = \dfrac{(1-x^2-y^2) + 4x^2}{(x^2+(y+1)^2)^2}
となる.以前得られたe^{-2y}の等式から
(1-x^2-y^2)^2 + 4x^2 = (x^2 + (y-1)^2)^2
が言える.これを式変形し,因数分解すると
y( 4(y-1)^2 + 4x^2) = 0
となる.(x,y) = (0,1)は元の方程式の解ではないので,もし解があるならy=0であること,すなわち解は実軸の上にしかないことが分かった.(証明終わり)

補題2
整関数z\cos(z) - \sin(z) = 0は位数1の奇関数である.
証明:\max_{|z| = R} z \cos(z) - \sin(z) \leq \max_{|z| = R}z\cos(z) +  \max_{|z| = R} \sin(z) \leq 2 Re^{R}
である.よって位数\lambda\lambda = \limsup_{R \to \infty} \dfrac{\log \log \max_{|z| = R} f(z)}{\log R} \leq 1
であり,z = iRを考えることで\lambda = 1であることが分かる.(証明終わり)

これら二つの補題アダマール因数分解定理を用いて,f(z) = z \cos (z) - \sin(z)は次のように因数分解できます.
f(z) = z^3 e^{a + bz} \prod_{k = 1}^{\infty}\left( 1 - \dfrac{z}{\rho_k} \right) e^{\frac{z}{\rho_k}} \left(1 - \dfrac{z}{-\rho_k} \right) e^{-\frac{z}{\rho_k}}
ここでf(z)が奇関数なのでb = 0がわかり,f(z) = z\cos(z) - \sin(z)テイラー展開を考えることで
f(z) = -\dfrac{1}{3}z^3 \prod_{k=1}^{\infty} \left( 1 - \dfrac{z^2}{{\rho_k}^2 } \right)
とわかります.
f(z)テイラー展開
f(z) = - \dfrac{z^3}{3} + \dfrac{z^5}{30} \cdots
で始まるので
\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^2} = \dfrac{1}{10}
が言えました.

テイラー展開の高次の項まで見ることで\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^{2n}}の値も計算できます.テイラー展開7 次の項をa_7と表すと
\left( \sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^2} \right)^2 - \sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^4} = 2 a_7
などから\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^4}なども計算でき,その結果は以前の結果と一致します.

tan(x) = xの根について2

前回の記事
box-white.hatenablog.com
\tan(x) = xの根の無限級数の値を求めました.今回はこの続きとして一般的な級数\sum \dfrac{1}{\rho^{2n}}の値を求める方法を考えます.

まずI_{2n+1} = \int_{0}^{1} x^{2n+1} \sin(\rho x) dxと置きます.ここで\rho\tan(x) = xの任意の正の根です.
I_{2n+1} = \dfrac{1}{\rho} \int_{0}^{1} x^{2n+1} (-\cos (\rho x))' dxとなって部分積分の公式から
I_{2n+1} = - \dfrac{\cos(\rho)}{\rho} + \dfrac{2n+1}{\rho} \int_{0}^{1} x^{2n} (\cos(\rho x)) dxとなります.
\cos(\rho x) = \dfrac{1}{\rho}(\sin(\rho x))'を用いてもう一度部分積分の公式を使うと,
I_{2n+1} = -\dfrac{\cos(\rho)}{\rho} + \dfrac{(2n+1) \sin(\rho)}{\rho^2} - \dfrac{(2n+1)(2n)}{\rho^2} I_{2n-1}
となります.ここで\sin(\rho) = \rho \cos (\rho)より初めの二項が打ち消しあって
I_{2n+1} = \dfrac{2n\sin(\rho)}{\rho^2}  - \dfrac{(2n+1)(2n)}{\rho^2} I_{2n-1}となります.
またI_{3} = \dfrac{2 \sin \rho}{\rho^2}です.これらの式からa_mを定数として,I_{2n+1} = \sum_{m=1}^{n} \dfrac{a_m \sin(\rho)}{\rho^{2m}}と表すことができます.

f(x) = x^{2n+1} - n x^3f(0) = 0,f(1) = f'(1)なので前回の記事の展開公式が適用できます.
それは
f(x) = 3x ( f(t),t) + \sum_{\rho} \dfrac{2}{\sin^2 \rho} (f(t),\sin(\rho t))\sin(\rho x)
で和は\tan(x) = xの正の根すべてを渡ります.
これを計算すると
f(x) =
 3x\left( \dfrac{1}{2n+3} - \dfrac{n}{5} \right) + \sum_{\rho} \left( \sum_{m} \dfrac{2 a_m\sin(\rho)}{\rho^{2m}} \dfrac{ \sin (\rho x)}{\sin^2(\rho)} + \dfrac{4n}{\rho^2} \dfrac{\sin(\rho)}{\sin^2(\rho)} \sin(\rho x) \right)
となります.
x = 1を代入して
1-n = 3\left( \dfrac{1}{2n+3} - \dfrac{n}{5} \right)+ \sum_{\rho} \left( \sum_{m} \dfrac{2 a_m}{\rho^{2m}} + \dfrac{4n}{\rho^2} \right)
となります.
nを一つずつ増やしていけば,帰納的に\sum\dfrac{1}{\rho^{2n}}の値を求めることができます.

試しに\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^{6}}を求めましょう.I_7を公式を使って求めると
I_7 = \dfrac{6 \sin \rho}{\rho^2} - \dfrac{168 \sin \rho}{\rho^4} + \dfrac{1680 \sin \rho}{\rho^6}
となります.
f(x) = x^7 -3x^3として,これを代入すると
1-3  = 3 \left( \dfrac{1}{9} - \dfrac{3}{5} \right) - 336 \sum_{\rho}\dfrac{1}{\rho^4} + 3360 \sum_{\rho}\dfrac{1}{\rho^6}
となります.\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^4} = \dfrac{1}{350}であることから
\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^6} = \dfrac{1}{7875}と求まりました.

この記事を書いている途中に複素関数の無限乗積を使うことで,別の方法でも求められることに気付きました.次回はそのことについて
考察したいと思います.
box-white.hatenablog.com

スツルム-リウヴィル型微分方程式の応用 tan(x) = xの根について.


今日はスツルムーリウヴィル型微分方程式を応用して次のような公式を導きます.

公式
\tan(x) = xの正の根を\rho_kで表すと
\sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{\rho_{k}^4} = \dfrac{1}{350}
\sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{\rho_{k}^2} = \dfrac{1}{10}

早速証明していきましょう.

スツルムーリウヴィル型微分方程式とはp(x) > 0,q(x) ,w(x) > 0なる実数値連続関数が与えられたとき次のような微分方程式を指します.
-\dfrac{d}{dx} \left( p(x) \dfrac{dy}{dx} \right) + q(x) y = \lambda w(x) y
ここで\lambdaは未定の定数です.
考察の区間を閉区間[a,b]として,次の境界条件を考えます.
\alpha_1 y(a) + \alpha_2 y'(a) = 0
\beta_1 y(b) + \beta_2 y'(b) = 0
このとき
(i)微分方程式境界条件を満たす解を持つような定数\lambdaは離散的で最小値を持つ.それを固有値といい,その解を固有関数という.

(ii)それぞれの固有値に対する固有関数は定数倍を除いて一意に定まる.

(iii)固有関数は境界条件を満たす連続関数のヒルベルト空間において直交基底をなす.ただし内積
( f(x),g(x) ) = \int_{a}^{b} f(x)g(x)w(x) dxで与えられる.(見にくい記号ですがはてなブログでは「やまかっこ」が不安定なのでこうしてます.)

これらを既知として証明を進めます.

\tan(x) = xの根の定理を得るためにはp(x) = 1,q(x) = 0,w(x) = 1とし,区間[0,1],境界条件
y(0) = 0,y'(1)-y(1) = 0
とします.最初にヒルベルト空間の基底,すなわち固有関数を求めて行きます.
このとき微分方程式
\dfrac{d^2 y}{dx^2} + \lambda y = 0
となります.
\lambda < 0とすると,境界条件を満たす固有関数は存在しません.
\lambda = 0のとき,y=xを持ちます.
\lambda > 0のとき,y = \sin(\lambda x)となり,境界条件から\tan(\lambda ) = \lambdaが成り立ちます.
そこで固有関数はy = x\tan(x) = xn番目の正の解を\rho_nとしてy = \sin(\rho_n x)となります.

スツルムーリウヴィル理論より,境界条件を満たす関数はこれらの固有関数の線形和で与えられます.内積記号で書くと
f(x) = 3(f(x),x) + \sum_{\rho} \dfrac{2}{(\sin(\rho_n))^2}(f(x),\sin(\rho_n x)) \sin(\rho_n x)
となります.ここで\int_{0}^{1} x^2 = \dfrac{1}{3},\int_{0}^{1} \sin^2(\rho_n x)= \dfrac{ \sin^2(\rho_n x)}{2}であることを用いました.

この公式にf(x) = x^5-2x^3を代入します.\int_{0}^{1} x^3 \sin(\rho_n x) dx = \dfrac{2 \sin(\rho_n)}{\rho_n^2}であること,\int_{0}^{1} x^5 \sin(\rho_n x) dx = \dfrac{4 \sin(\rho_n)}{\rho_n^2} - \dfrac{40 \sin(\rho_n)}{\rho_n^4}であることを用いると,
x^5-2x^3 = -\dfrac{27}{35}x + \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{-80 \sin(\rho_k x)}{\rho^4 \sin (\rho_k)}となり,x=1を代入することで
\sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{\rho_k^4} = \dfrac{1}{350}となります.

さらに上の式において\rho_k > kであることと,\sin(\rho_k) = \dfrac{\rho_k^2}{1+\rho_k^2}であるからkが大きくなると\sin(\rho_k)はほぼ1と考えてよいこと,\sin(\rho_k x)の絶対値は1を超えないことから項別微分が可能です.
項別微分を二回行うと,
20x^3-12x = \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{80 \sin(\rho_k x)}{\rho^2 \sin(\rho_k)}となり,x=1の極限を取ると,
\sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{\rho_k^2} = \dfrac{1}{10}となります.

次の記事でより\tan(x) = xの一般的な公式を導く方法を考察していきたいと思います.

box-white.hatenablog.com

謎の自由研究 全自動定理生成器のアイデア


今回は新しい定理を提案してくれるようなプログラムを考えてみました.実際に部分的に作ってみました.そこでなんだかよくわからない結果を得られたので投棄しておきます.(今回の内容はトンデモ成分が多めです.)

数学の定理は複数の定理を組み合わせることで生成されます.そこでとにかく定理を書き連ねて,それらを二つ以上選んで,新しい定理にならないか検証するというアプローチが考えられます.しかしこの総当たりの方法は時間がかかります.そこで次のような「タグ付け」というアイデアを思いつきました.

定理には前提となる部分と結論になる部分があります.そこで定理を前提と結論の二つの部分に分けます.そしてそれぞれに「キーワード」をタグ付けします.

具体例で説明します.定理はアティーヤ.マクドナルドの可換代数入門から引用しました.

定理6.5:Aネーター環とし,Mを有限生成A加群とする.このときMはネーターA加群となる.

前提はAネーター環,Mが有限生成A加群という二点です.そこで定理6.5の前提に二つのタグNoetherian,FinitelyGeneratedを付けます.
結論はMがネーターであるということです.そこで定理6.5の結論にタグNoetherianを付けます.

具体的にはcsv形式で管理します.

可換代数入門の6章までの定理(めんどくさいのでここまで)にタグ付けをして,そこから有向グラフを作ります.すなわち「キーワード(タグ)」をノード,「定理」をエッジとする有向グラフです.定理6.5の例でいえば二つのノードNoetherian,FinitelyGeneratedからNoetherianに向かって二つの矢印が伸びるようにします.

次に経路探索をします.例えばキーワードFieldからNoetherianに二つの定理を経由して行くようなパスを探索します.つまり前提がFieldの情報を持ち,結論にNoetherianの情報を持つような新しい定理を探求します.もちろんタグ付けは荒いので二つの定理がいつでもうまく合体するわけではありません.

試みにIntegral(要素が整であること)からNoetherianに二つの定理を経由して行くようなパスを探索してみました.するとIntegralからFinitelyGenerated(何かが有限生成であることを表したタグ)を経由してNoetherianに行くようなパスが見つかりました.二つの定理を具体的に見てみると
(IntegralからFinitelyGeneratedに行く定理)
定理5.1Aを環Bの部分環とし,x\in BA上整な元とする.このときA[x]は有限生成A加群である.
(FinitelyGeneratedからNoetherianに行く定理)
定理6.5:Aネーター環とし,Mを有限生成A加群とする.このときMはネーターA加群である.
となります.そこでこれら二つの定理を組み合わせると(この作業は人間が行う)次のような定理が得られます.

謎の定理:Aを環Bの部分環とし,またAネーター環とする.x \in BA上整な元とする.このときA[x]はネーターA加群である.

こうして謎の定理が得られました.二つの定理を組み合わせることで謎の定理が証明されます.
この謎の定理から次のような定理が得られます.
定理:K有理数\mathbb{Q}の有限次拡大体,O_Kをその整数環とする.このときO_Kはネーター\mathbb{Z}加群である.
O_K\mathbb{Z}に有限個の整の元を添加することで作られます.そこで\mathbb{Z}ネーター環なので謎の定理からO_Kはネーター\mathbb{Z}加群になります.

この定理は既知のものです.後から気付いたのですが,実際「可換代数入門」の7章に記述がありました.またほとんどのキーワードではゴミみたいな定理しか得られません.

最初はキーワード検索ができるような定理集が作れないかということから出発しました.つまり前提や結論にキーワードを持つような定理を列挙してくれるようなプログラムを考えていました.

自由研究 ヒルベルトの数論報告を読む #10

前回の記事
box-white.hatenablog.com
ヒルベルトイデアルを導入したことに触れました.

今回は次のような問題を考えたいと思います.

問題:与えられたイデアルが単項イデアルかどうか判定する方法を編み出せ.

イデアルが単項イデアルかどうかは類数の決定などにもかかわってきます.
いつでも通用する解答を見出すことはできませんでしたが,多くの場合うまくいくような方法を見つけました.

部分解答:\mathfrak{a},\mathfrak{b}イデアル,\alpha,\betaを体の整数とする.このとき関係式
\alpha \mathfrak{a} = \beta \mathfrak{b}
が成り立ち,\mathfrak{b}が単項イデアルならば\mathfrak{a}も単項イデアルである.
また,任意の整数\alpha,\beta,kについて(\alpha,\beta) = (\alpha + k\beta,\beta)が成り立つ.

具体例:\alpha = \sqrt[3]{2}とする,体の整数環は\alphaで生成される.このとき(5,2+\alpha)が単項イデアルかどうか調べる.
4+2\alpha + \alpha^2を乗じると,(5(4+2\alpha + \alpha^2) , 10)となる.これは(5)(4+2\alpha+\alpha^2,2)である.
4+2\alpha + \alpha^2 = 2(2+\alpha) + \alpha^2より,(4+2\alpha+\alpha^2 ,2) =  (\alpha^2,2)である.
\alpha^3 = 2からイデアル(\alpha^2,2)(\alpha^2)に等しい.従って(5,2+\alpha)は単項イデアルとなる.

追記:この方法がうまくいった場合,イデアルの生成元を求めることができる.今の場合(4+2\alpha + \alpha^2)(5,2+\alpha) = (2)(\alpha^2)
であることから,両辺を割ると,(5,2+\alpha) = \dfrac{2(\alpha^2)}{4+2\alpha+\alpha^2} = (\alpha^2 +1)となる.

また,この方法はいつでもうまくいくわけではない.