名前のない定理

マニアックな数学

東京大学の入試問題について

東大の入試に次のような問題が出題されたみたいです.
5^m + 4^m < 10^{19}となるような最小の自然数mを求めよ.

この問題の解説は別のサイトに譲ることにします.問題を解く途中で(0.8)^{27}を評価する必要が出てきました.この(0.8)^{27}を上から抑える面白い方法を発見したのでここに書いておくことにします.

まず(0.8)^2 = 0.64です.(0.8)^4 を計算します.二桁と二桁の掛け算なのでそんなに時間はかかりません.この結果を小数点第三位を繰り上げると上からの評価が得られます.つまり(0.64)^2 = 0.4096なので(0.8)^4 = (0.64)^2 < 0.41となります.(0.8)^8 < (0.41)^2です.ここでも右辺を計算し,小数点第三位を繰り上げると(0.8)^8 < 0.17が得られます.

この調子で計算を続けていきます.(0.8)^{16} < 0.029となります.
(0.8)^{27} = (0.8)^{16} \cdot (0.8)^8 \cdot (0.8)^2 \cdot (0.8)
 < 0.029 \cdot 0.17 \cdot 0.64 \cdot (0.8)= 0.0026という評価が得られました.右辺の計算も二桁と二桁の掛け算に丸めて行いました.
問題を解くにはこれで十分です.

これがどれだけ真の値と近いか比較してみます.(0.8)^{27} \simeq 0.0024178516なので(0.8)^{27} < 0.0026という評価はかなりいい感じなのが分かります.

1に近い数の累乗を抑える面白い方法が見つかりました.ついでにこの(0.8)^{27}の結果から\log_{10} 2 < 0.304となかなかの結果が得られます.暇な人はぜひ考えてみてください.

サイクロイドの時間等分問題

サイクロイドx = a(\theta - \sin( \theta)),y = a(1-\cos(\theta))x軸に対して反転させた斜面上の物体の運動を考えます.\theta = 0の地点で手を放すとします.ある点\theta_0の地点まで物体が移動したとき,それにかかる時間をT_0とします.

ここで時刻が\dfrac{T_0}{2}のとき,物体はどこにあるかという問題を立てます.これを解いていきましょう.

サイクロイド\theta = 0から\thetaまでの長さをl(\theta)とします.エネルギー保存則から\dfrac{d l}{d t} = \sqrt{2gy}が成り立ちます.\dfrac{T_0}{2}時点の\thetaの値を\theta_1とするとき,次の等式が成り立ちます.
\int_{0}^{\theta_1} \dfrac{d l }{\sqrt{2gy}} = \int_{0}^{\theta_1} dt = \dfrac{T_0}{2}

ここで\dfrac{dl}{d\theta} = \sqrt{\left(\dfrac{dx}{d \theta} \right)^2 + \left(\dfrac{dy}{d \theta} \right)^2}
より,\dfrac{dl}{d\theta} = \sqrt{2ay}となります.従ってこれを積分の式に代入すると
\int_{0}^{\theta_1} \sqrt{\dfrac{a}{g}} d \theta = \dfrac{T_0}{2} = \dfrac{1}{2}\int_{0}^{\theta_0} \sqrt{\dfrac{a}{g}}d \thetaとなります.よって\theta_1 = \dfrac{\theta_0}{2}が言えました.これが答えになります.

\thetaと時刻Tが簡単な関係で結び付くというサイクロイドの面白い性質が分かりました.

数学オリンピックのある問題について

数学オリンピックに次のような問題が出されたことがあるようです.

問題:a,b自然数とする.もしa^2 + b^2ab+1で割り切れるならば,\dfrac{a^2+b^2}{ab+1}は平方数であることを示せ.

この問題の解説は別のサイトに任せて,私は次のような問題を立ててみました.

a^2+b^2ab+1で割り切れるような自然数a,bの組にはどのようなものがあるか.

a^2+b^2ab+1で割り切れるような自然数a,bの組の集合を\Deltaとします.また\dfrac{a^2+b^2}{ab+1}平方根cとなるようなa,bの集合を\Delta_cと書くことにします.

コンピューターで総当たりの計算をさせると次のような面白い\Deltaの列に出会いました.

(2,8),(8,30),(30,112),(112,418),(418,1560) \in \Delta_2
(3,27),(27,240) \in \Delta_3
(4,64),(64,1020) \in \Delta_4
このように一つの数を共有する列が見つかりました.この数をぐっとにらんで考えたところ,次のような二つの定理があることが分かりました.

定理1:(c,c^3) \in \Delta_c
定理2:(a,b) \in \Delta_c ならば(b,c^2b-a) \in \Delta_c

証明していきましょう.定理1の場合,分数は\dfrac{c^2+c^6}{c^4 + 1} = c^2となり割り切れます.定理2の場合,分子はb^2 + (c^2b-a)^2 = a^2 + b^2 + c^4b^2 - 2c^2ab となりますが.(a,b) \in \Delta_cより,a^2 + b^2 = c^2(ab+1)となるので,c^2(c^2 b^2-ab + 1)となります.分母はc^2b^2 - ab + 1となるので,a^2 + b^2ab+1で割り切れ,その分数はc^2になることが分かりました.(証明終わり)

面白い定理が見つかりました.上で見つかった\Deltaはすべてこの方法で得ることができています.こうなると次の問題を立てたくなります.
問題:\Deltaは定理1と定理2の方法ですべて得られるか?

ここでブログを終わろうと思いましたが,次のような定理が見つかりました.

定理3:(A,B) \in \Delta_cならば(c^2A-B,A)から作られる分数の値はc^2になる.
これは上の二つの定理と同様に示すことができます.これは定理2の反対になっています.つまり定理2の(b,c^2b-a)(A,B)と表して(a,b)A,Bで表したものが定理3になります.さらに次の定理も見つかりました.

定理4:(A,B) \in \Delta_cでかつA < Bならば(c^2A-B ) < A.
背理法で示します.c^2A-B \geq Aとするとc^2 \geq \dfrac{A+B}{A}になります.一方A^2 + B^2 = c^2(AB+1)なのでこれに不等式を代入すると,A^2+B^2 \geq (1 + \dfrac{B}{A})(AB+1) = B^2 + AB + \dfrac{B}{A} + 1 .ここで A < B\dfrac{B}{A} + 1 > 0を使うと,A^2 + B^2 > B^2 + A^2となり矛盾です.よって(c^2A - B) < Aが得られました.

定理5:(A,B)\in \Delta_cとする.ここから定理3の操作を繰り返して列を作る.このとき第一引数が負の数になることはない.
(A,B) \in \Delta_cA > 0,B > 0とし,c^2A - B \leq -1とする.(c^2A-B ,A )(a,b)と置くと,a \leq -1 , b >0が成り立ち,A = b , B = c^2b-aである.(A,B) \in \Delta_cより\dfrac{A^2+B^2}{AB+1} = c^2である.A,Ba,bで表し整理するとa^2 + b^2 - c^2ab = c^2となる.ところがa \leq -1,b>0より左辺はc^2よりも真に大きいため矛盾である.従って定理3の操作を繰り返しても第一引数は負の数にならない.(証明終わり)

以上の定理から\Deltaの構造が完全に得られます.(a,b) \in \Delta_cとすると定理3の操作を繰り返せば,第一引数がだんだん小さくなります.無限に減少する自然数の列は不可能であり,第一引数が負の整数になることはないため,第一引数はある時点で0にならなければいけません.このとき直前の自然数の組は(b,c^2b) \in \Delta_cとなることから,\dfrac{b^2 + c^4b^2}{c^2b^2 + 1} = c^2すなわちb^2 = c^2となりこの組は(c,c^3)となります.ここから逆向きにたどる,つまり定理2の操作を繰り返せば(a,b)が得られることが分かります.\Deltaは定理1と定理2の操作を繰り返すことですべて得られることが分かりました.

作用幾何学入門2

前回の記事
box-white.hatenablog.com

定義7,二点a,b \in Mの中点m \in Mとはm \in L(a,b)であり,\alpha \in Gが存在して\alpha(m) = m , \alpha(a) = b , \alpha(b) = aとなること.

定理8,\gamma \in Gとする.ma,bの中点であることと,\gamma(m)\gamma(a),\gamma(b)の中点であることは同値.
(証明)定理6より\gamma(m) \in L(\gamma(a),\gamma(b))である.また\alpha \in Gが存在し,\alpha(m) = m,\alpha(a) = b , \alpha(b) = aである.このとき\gamma \alpha \gamma^{-1} ( \gamma(m)) = \gamma(m),\gamma \alpha \gamma^{-1}(\gamma(a)) = \gamma(b),\gamma\alpha \gamma^{-1}(\gamma(b)) = \gamma(a)となり,確かに\gamma(m)\gamma(a),\gamma(b)の中点となる.

定義9,a \in M,G(a)aを固定するGの群とする.aを中心としabを半径とする球面とは,\alpha \in G(a)が存在して\alpha(b) = cとなる点c全体の集合と定義する.この球面をS(a;b)と書く.

定理10,\gamma \in G,a,b,c \in Mとする.c \in S(a;b)ならば\gamma(c) \in S(\gamma(a) ; \gamma(b))
(証明)\alpha \in G(a)が存在し,\alpha(b) = cとなる.このとき\gamma\alpha \gamma^{-1} \in G(\gamma(a))であり,\gamma \alpha \gamma^{-1}(\gamma(b)) = \gamma(c)であり定理が証明された.

定理11,b \in S(q ; a)とし,q \in L(a,b)とする.任意のc \in S(q ; a)と任意の\alpha \in G(a,b)に対して\alpha(c) \in S(q;a)が成り立つ.
(証明)q \in L(a,b)より,\alpha \in G(a,b)に対し\alpha(q) = q.c \in S(q;a)より\beta \in Gが存在し,\beta(q) = q , \beta(a) = c.このとき\alpha \beta(q) = q,\alpha \beta(a) = \alpha(c)が成り立ち,従って\alpha(c) \in S(q;a)が言えた.

定義12,a,b \in Mとする.\alpha \in Gが直線a,bの軸移動であるとは,\alpha(a) \in L(a,b)かつ\alpha(b) \in L(a,b)となること.この変換全体の集合をPL(a,b)と表す.

定理13,a,b \in Mとする.n \in L(a,b) ,\alpha \in PL(a,b)に対して\alpha(n) \in L(a,b).
(証明)定理6より\alpha(n) \in L(\alpha(a),\alpha(b)).\alpha(a) \in L(a,b),\alpha(b) \in L(a,b)と定理3から\alpha(n) \in L(a,b)

この文章はフィクションです.作用幾何学という分野は存在しません.

作用幾何学入門1

作用幾何学について解説します.

ガウスは三次元空間内の二点a,bを通る直線を「a,bを固定するような変換の下で不変な点の集合」と定義したそうです.a,bを固定するような合同変換はa,bを通る軸の周りの回転だけになり,それで不変な点は確かにa,bを通る直線になります.

このことに範をとり,群が集合上に作用しているとき,集合上に直線を書くことができそうです.早速定義をしていきましょう.

この文章では一貫して群Gが集合Mに作用しているとする.また群Gの元はギリシャ文字で,集合Mの元はラテン文字を用いて表すことにする.

定義1a,b \in Mに対し,Gの部分群G(a,b)a,bの両方を固定するGの元全体の集合とする.
定義2 a,b \in Mに対しMの部分集合L(a,b)を,任意のG(a,b)の変換で不変なMの元の集合とする.これをa,bを通る直線と言い表す.
定理3a,b,c,d \in Mについて,c \in L(a,b) ,d \in L(a,b)ならばG(c,d) \supseteq G(a,b)
(証明) \alpha \in G(a,b)ならばc ,d \in L(a,b)より \alpha(c) = c , \alpha(d) = d.よって\alpha \in G(c,d)(証明終わり)
定理4a,b,c,d,e \in Mについて,c \in L(a,b) , d \in L(a,b ) , e \in L(c,d)ならばe \in L(a,b)
(証明)定理3よりG(c,d) \supseteq G(a,b).従ってL(c,d) \subseteq L(a,b)より定理が言える.(証明終わり)
定理5 \gamma \in G,a,b \in Mとする.このとき集合G(a,b)G(\gamma(a),\gamma(b))の間には全単射があり,その対応は\alpha \in G(a,b)に対して\gamma \alpha \gamma^{-1}を対応させることで得られる.
(証明)\alpha \in G(a,b)とすると(\gamma \alpha \gamma^{-1})(\gamma(a)) = \gamma(a),(\gamma \alpha \gamma^{-1} ( \gamma(b)) = \gamma(b)より,\gamma \alpha \gamma^{-1} \in G(\gamma(a),\gamma(b))が言える.
\gamma \alpha_1 \gamma^{-1} = \gamma \alpha_2 \gamma^{-1}なら\alpha_1 = \alpha_2ゆえに単射性が言える.
\beta \in G(\gamma(a),\gamma(b))とすると,\gamma^{-1} \beta \gamma \in G(a,b)が容易に分かる.よって\alpha \in G(a,b)が存在し,\beta = \gamma \alpha \gamma^{-1}が言える.これで写像全射性が言えた.(証明終わり)

定理6\gamma \in G,a,b \in Mとする.このとき集合L(a,b)と集合L(\gamma(a),\gamma(b))の間には全単射があり,その対応はc \in L(a,b)に対して\gamma(c)を対応させることで得られる.
(証明)定理5より任意の\beta \in G(\gamma(a),\gamma(b))に対して\alpha \in G(a,b)が存在して\beta = \gamma \alpha \gamma^{-1}となる.このとき\beta(\gamma(c)) =(\gamma \alpha \gamma^{-1})(\gamma(c)) =\gamma(c)が言える.ここでc \in L(a,b)であることを用いた.従って\gamma(c) \in L(\gamma(a),\gamma(b))であることが言える.単射性は群の作用より証明できる.c' \in L(\gamma(a),\gamma(b))に対して\gamma^{-1}(c)L(a,b)の元であることが言える.これより全射性が言える.(証明終わり)

長くなったので記事を分割します.これから中点,球,平行移動について定義し,その性質を見ていきたいと思います.

(この文章はフィクションです.作用幾何学という分野は存在しません.)