名前のない定理

マニアックな数学

数学オリンピックのある問題について

数学オリンピックに次のような問題が出されたことがあるようです.

問題:a,b自然数とする.もしa^2 + b^2ab+1で割り切れるならば,\dfrac{a^2+b^2}{ab+1}は平方数であることを示せ.

この問題の解説は別のサイトに任せて,私は次のような問題を立ててみました.

a^2+b^2ab+1で割り切れるような自然数a,bの組にはどのようなものがあるか.

a^2+b^2ab+1で割り切れるような自然数a,bの組の集合を\Deltaとします.また\dfrac{a^2+b^2}{ab+1}平方根cとなるようなa,bの集合を\Delta_cと書くことにします.

コンピューターで総当たりの計算をさせると次のような面白い\Deltaの列に出会いました.

(2,8),(8,30),(30,112),(112,418),(418,1560) \in \Delta_2
(3,27),(27,240) \in \Delta_3
(4,64),(64,1020) \in \Delta_4
このように一つの数を共有する列が見つかりました.この数をぐっとにらんで考えたところ,次のような二つの定理があることが分かりました.

定理1:(c,c^3) \in \Delta_c
定理2:(a,b) \in \Delta_c ならば(b,c^2b-a) \in \Delta_c

証明していきましょう.定理1の場合,分数は\dfrac{c^2+c^6}{c^4 + 1} = c^2となり割り切れます.定理2の場合,分子はb^2 + (c^2b-a)^2 = a^2 + b^2 + c^4b^2 - 2c^2ab となりますが.(a,b) \in \Delta_cより,a^2 + b^2 = c^2(ab+1)となるので,c^2(c^2 b^2-ab + 1)となります.分母はc^2b^2 - ab + 1となるので,a^2 + b^2ab+1で割り切れ,その分数はc^2になることが分かりました.(証明終わり)

面白い定理が見つかりました.上で見つかった\Deltaはすべてこの方法で得ることができています.こうなると次の問題を立てたくなります.
問題:\Deltaは定理1と定理2の方法ですべて得られるか?

ここでブログを終わろうと思いましたが,次のような定理が見つかりました.

定理3:(A,B) \in \Delta_cならば(c^2A-B,A)から作られる分数の値はc^2になる.
これは上の二つの定理と同様に示すことができます.これは定理2の反対になっています.つまり定理2の(b,c^2b-a)(A,B)と表して(a,b)A,Bで表したものが定理3になります.さらに次の定理も見つかりました.

定理4:(A,B) \in \Delta_cでかつA < Bならば(c^2A-B ) < A.
背理法で示します.c^2A-B \geq Aとするとc^2 \geq \dfrac{A+B}{A}になります.一方A^2 + B^2 = c^2(AB+1)なのでこれに不等式を代入すると,A^2+B^2 \geq (1 + \dfrac{B}{A})(AB+1) = B^2 + AB + \dfrac{B}{A} + 1 .ここで A < B\dfrac{B}{A} + 1 > 0を使うと,A^2 + B^2 > B^2 + A^2となり矛盾です.よって(c^2A - B) < Aが得られました.

定理5:(A,B)\in \Delta_cとする.ここから定理3の操作を繰り返して列を作る.このとき第一引数が負の数になることはない.
(A,B) \in \Delta_cA > 0,B > 0とし,c^2A - B \leq -1とする.(c^2A-B ,A )(a,b)と置くと,a \leq -1 , b >0が成り立ち,A = b , B = c^2b-aである.(A,B) \in \Delta_cより\dfrac{A^2+B^2}{AB+1} = c^2である.A,Ba,bで表し整理するとa^2 + b^2 - c^2ab = c^2となる.ところがa \leq -1,b>0より左辺はc^2よりも真に大きいため矛盾である.従って定理3の操作を繰り返しても第一引数は負の数にならない.(証明終わり)

以上の定理から\Deltaの構造が完全に得られます.(a,b) \in \Delta_cとすると定理3の操作を繰り返せば,第一引数がだんだん小さくなります.無限に減少する自然数の列は不可能であり,第一引数が負の整数になることはないため,第一引数はある時点で0にならなければいけません.このとき直前の自然数の組は(b,c^2b) \in \Delta_cとなることから,\dfrac{b^2 + c^4b^2}{c^2b^2 + 1} = c^2すなわちb^2 = c^2となりこの組は(c,c^3)となります.ここから逆向きにたどる,つまり定理2の操作を繰り返せば(a,b)が得られることが分かります.\Deltaは定理1と定理2の操作を繰り返すことですべて得られることが分かりました.