名前のない定理

マニアックな数学

自由研究 ヒルベルトの数論報告を読む #7

前回の記事で\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})の整基底を求めようとしていました.そこで形式
\dfrac{a + b \sqrt{2} + c \sqrt{3} + d \sqrt{6}}{3}
の数,ただしa,b,c,dは有理整数,の中でどの数が整数になるかを決定しようとしていました.そしてこの形式であらわされる数を(a,b,c,d)で表記すると,(1,1,1,1)が整数でないことを共役数をとる議論で示しました.今回はこの続きです.

定理1:(a,b,c,d)a \equiv b \equiv c \equiv d \equiv 0 \pmod{3}とならない限り整数とならない.

証明:(a,b,c,d)が整数ならばその共役数(a,-b,c,-d),(a,b,-c,-d),(a,-b,-c,d)も整数となる.これら4つの数の総和を取ると,(4a,0,0,0)が整数となる.これが整数となるのはa\equiv 0 \pmod{3}のときのみ.また(a,b,c,d) - (a,-b,c,-d) + (a,b,-c,-d) - (a,-b,-c,d) = (0,4b,0,0)となるが(0,4b,0,0) = \dfrac{4b \sqrt{2}}{3}が整数となるのは再び b \equiv 0 \pmod{3}のときのみ.同様の議論でc \equiv 0 , d \equiv 0 \pmod{3}が言える.(証明終わり)

この議論はp,qを奇素数として\mathbb{Q}(\sqrt{p},\sqrt{q})の場合に一般化可能である.すなわちrを奇素数とすると形式
\dfrac{a + b \sqrt{p} + c \sqrt{q} + d \sqrt{pq}}{r}
が整数となるのはa \equiv b \equiv c \equiv d \equiv 0 \pmod{r}となるときに限られる.

さらに分母が8の形式について次のような定理が成り立つ.

定理2:(a,b,c,d)を数
\dfrac{a + b \sqrt{p} + c \sqrt{q} + d \sqrt{pq}}{8}
を表す記号とする.このとき(a,b,c,d)が整数ならば,a,b,c,dはすべて偶数である.

証明:(a,b,c,d)が整数なら,定理1と同様にして(a,b,c,d) + (a,-b,c,-d) + (a,b,-c,-d) + (a,-b,-c,d) = (4a,0,0,0)は整数となる.よって4a \equiv 0 \pmod{8}となり
aは偶数となる.残りのb,c,dについても同様.(証明終わり)

有理数体に奇素数平方根を二つ添加した体において,整基底を求めるためには分母が2,4の形式のみを考察すればよいことが分かりました.面白いですね.

これを使って\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})の整基底を決定すると,分母が4のときには整数は存在せず,従って1,\sqrt{2},\sqrt{3},\dfrac{\sqrt{2}+ \sqrt{6}}{2}が整基底になることが分かります.

この共役数を取って整基底を決定するテクニックは,拡大体がガロア体ならばいつでも通用します.次の記事でx^3 - 3x + 1 = 0の根\alphaを添加した体\mathbb{Q}(\alpha)の整基底を求めて行きたいと思います.