整基底を求める問題で共役数を用いる方法を解説してきました.今回はの根を有理数体に添加した体の整基底を求めて行きます.
の三つの根をと置く.よりは体の生成元である.
判別式が有理数の平方なので,この拡大はガロア拡大である.従って別の根をの有理式で表現できる.具体的にこれを求めて行く.まずからとなる.判別式からとなる.(符号の任意性があるがこの後の展開では問題にならない.)この式にを用いてを消去し,がの根であることを使えば,となる.
とからの項を消去し,をであらわすと,となる.ここでを使うと,となる.これが共役を取る多項式である.
の整基底を求めて行く.判別式がなので形式
のみを考察すればよい.この数をと置く.
初めに共役数を取る操作を線形写像で表す.,なので数の共役を取ると
に移行する.
次ににを乗じるとに移行する.は明らかに整数なのでが整数でないならばは整数でない.これを繰り返すと
となる.これよりが整数ならも整数,従っても整数となる.従って
は整数であるかどうかについて運命共同体である.すなわちどれか一つが整数ならば他の二つも整数であり,どれか一つが整数でないならば他の二つも整数ではない.
数を三つの操作,共役数を取る操作とを乗じる操作,そして整数倍を取る操作で移りあえる関係で分類していく.これらは一蓮托生である.すなわち分類された数のうち一つが整数であれば同じ類にある数はすべて整数であり,整数でなければ同じ類にある数はすべて整数でない.を分類すると
第一類
第ニ類
第三類
第四類
の四つに分類される.
これら四つの類について整数性を試験していく.
第一類:明らかに整数である.
第ニ類:が整数でないのですべて整数ではない.
第三類:一番簡単なを用いる.の最小多項式はより整数ではない.
第四類:ノルムを取るととなる.より,ノルムは有理整数とならない.従って元の数も整数ではない.
よってが整数ならとなることが分かった.判別式は以外の有理素数を持たないので,体の整基底はであることが示された.
真面目にやると個の数が整数かどうかを試さなければなりませんが,このテクニックを使うと四つの数を試験するだけで済みます.
整基底を求める問題が解決したので,これからの記事では整基底の求め方をいちいち明記しません.私自身もsagemathの結果を信頼
して利用することにします.
2023/3/4追記
第ニ類が整数だとすると,とが整数となる.このときその和も整数となる.は第三類の数である.従って第三類を先に試験し,第三類が整数でないことが分かれば第二類も整数でないことが分かる.さらに第三類の元との和はとなる.は第四類の数である.もし第三類の元が整数であるならば,第四類の元も整数となる.
以上のことをまとめると先に第四類について整数性を試験し,第四類が整数でないことが示されれば,自動的に第二類も第三類も整数でないことが結論できる.