名前のない定理

マニアックな数学

行列式は平行四辺形の面積ですか?

平面上四つのベクトル\vec{0},\vec{a},\vec{b},\vec{a}+\vec{b}で作られる平行四辺形の面積を求めて行きます.この平行四辺形をP(\vec{a},\vec{b})と表すことにします.\vec{a} = (a_1,a_2),\vec{b} = (b_1,b_2)とすると平行四辺形の面積は= |a_1 b_2 - b_1 a_2|となります.これを示していきましょう.

実数tに対して平行四辺形を平行四辺形に変える二つの変換A(t),B(t)を考えます.
A(t), P(\vec{a},\vec{b}) \mapsto P(\vec{a}+t\vec{b} ,\vec{b})
B(t) ,P(\vec{a},\vec{b}) \mapsto P(\vec{a},\vec{b}+t\vec{a})

定理1:二つの変換A(t),B(t)は等積変形である.すなわち変換後の平行四辺形の面積は変換前の平行四辺形の面積に等しい.

図形的に証明します.変換A(t)は二つの頂点\vec{a},\vec{a} + \vec{b}をそれぞれベクトル\vec{b}の向きに同じ距離だけ動かしたものに他なりません.このとき二点\vec{0},\vec{b}を結んだ辺は変化せずそれに対する高さも変化しません.よって面積は変わらないことになります.変換B(t)に対しても同じです.(証明終わり)

次に平行四辺形から実数を作る関数\mathrm{det}を次のように定義します.

定義2:
\vec{a} = (a_1,a_2),\vec{b} = (b_1,b_2)のとき平行四辺形P(\vec{a},\vec{b})\mathrm{det}
\mathrm{det}(P) = a_1b_2 - b_1 a_2
で定義する.

定理3:平行四辺形PA(t)で変換した平行四辺形をQとする.このとき\mathrm{det}(P) = \mathrm{det}(Q)である.変換B(t)に対しても同様のことが成り立つ.

証明:平行四辺形Pを形作る二つのベクトルを\vec{a} = (a_1,a_2),\vec{b} = (b_1,b_2)とする.変換A(t)を施した後の平行四辺形Q\vec{a'} = (a_1 + t b_1,a_2 + t b_2),\vec{b} = (b_1,b_2)より作られる.
このとき\mathrm{det}(Q) = (a_1 + t b_1) b_2 - (a_2 + t b_2) b_1 = a_1 b_2 - a_2 b_1 = \mathrm{det}(P)となる.(証明終わり)

平行四辺形Pの面積を求めて行きます.変換A(t),B(t)を次々に行うことで平行四辺形を長方形Qにすることができます.このとき長方形の面積と\mathrm{det}(Q)の絶対値は等しくなります.(自分で考えてみましょう)
定理1から平行四辺形Pの面積と長方形Qの面積は同じです.また定理3から\mathrm{det}(P) = \mathrm{det}(Q)です.
よって(平行四辺形Pの面積)=(長方形Qの面積)= |\mathrm{det}(Q)| = |\mathrm{det}(P)|となり,
平行四辺形Pの面積は|a_1b_2-b_1a_2|と等しくなります.

平行四辺形の公式について,この形の証明はネットに落ちてなかったので記事を書きました.この方法なら行列式の性質さえ確認しておけば,三次元の平行六面体の体積についても同様の証明ができます.