とするとき
が得られる.
(前回の記事とは文字を変えています.など.)
私はこの等式をグレブナー基底を用いて確認しようとしました.つまり
と置き,多項式イデアルをで定義し,グレブナー基底を求め,
がイデアルに属するかどうか計算させようと考えました.
このとき偶然面白い現象を見つけたので報告したいと思います.
イデアルをのlex順序でグレブナー基底を計算すると,その中に次のような等式が現れます.
次にのlex順序を使うと
最後にのlex順序を使うと
となります.グレブナー基底の定義からこれらの等式は前提の三つの式を仮定するとすべて正しいことになります.
さらにのlex順序を使うと
がグレブナー基底の中に登場します.これと前段落二番目の式と組み合わせることで
となります.ガウス整数論の文脈ではとしていたので,ここから
が得られます.これは最初に目標にしていた等式でした.ガウスの巧妙な式変形がグレブナー基底を使うことで,簡単に再現できました.
さらにのdeglex順序を使うと,次の二つの式がグレブナー基底のうちに現れます.
そしてのdegrevlex順序を使うと
が得られます.この四つの式からの比に関する非自明な等式が得られます.これはガウス整数論にも載っていなかったものです.(ガウスにとって必要なかっただけなのかもしれませんが)
このようにグレブナー基底を使うことで意味深な式を「思いつく」ことができます.この方法を使えば今まで見落としていた巧妙な式変形が見つかるかもしれません.