ガウス整数論はいい本です.しかしその計算を自分で確かめようとすると,多大な労力が必要になります.例えば162条において次のような計算がなされます.
とするとき
となる.
ここで同じ文字を二度繰り返しているのは二乗を表しています.実際にはこのような計算が162条の中だけでも8回登場します.
確かにこれらは代入と式変形で導けるのですが,これらを地道に確認するのは大変です.そこでどうにかしてこの確認作業が楽に行えないかと四苦八苦した結果,次のような見通しの良い計算があることに気が付きました.以下でそれを紹介します.
二行二列の行列を
とする.最初に次の二つの補題を示す.
補題1
補題2
これらは容易に確認できる.
この行列を用いると
と書くことができる.,をこの行列表示を保ったまま計算する.ただしに関しては等式の中辺と右辺を掛け合わせる.
となる.中央の二行二列の行列以外はすべて共通なので簡単に差し引くことができ
となる.ここで中央の行列から共通因子を括りだした.補題1から真ん中の三つの行列の積は
となる.補題2を適用することで全体は
となり求める式が得られた.
第162条の難解な計算はすべてこれと類似の方法で導くことができます.この記事がガウス整数論を今後読む人の手助けになれば幸いです.