名前のない定理

マニアックな数学

円分多項式が既約であることのクロネッカーによる証明

pを奇素数とするとき,円分多項式x^{p-1} + x^{p-2} + \cdots + x + 1は整数多項式として既約です.これはアイゼンシュタインの既約判定法を使って証明するのが一般的です.今日はクロネッカーによる既約性の証明を紹介します.

\zeta1p乗根とすると,円分多項式\zeta,\zeta^2,\ldots,\zeta^{p-1}を根に持ちます.次の補題を証明します.

補題1:f(x) = a + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots + a_{n}x^nを整数係数多項式とするとき,合同式
f(\zeta)f(\zeta^2)\cdots f(\zeta^{p-1}) \equiv f(1)^{p-1} \pmod{p}
が成り立つ.ただしこの合同式は左辺と右辺の差を形式c_0 + c_1 x + \cdots + c_{p-1}x^{p-1}と表したとき,すべての係数がpで割り切れることを意味する.

証明:整数係数多項式g(x)g(x) = f(x)f(x^2)f(x^3) \cdots f(x^{p-1})= b_0 + b_1 x + b_2 x^2 + \cdots b_m x^mとする.和g(1) + g(\zeta) + g(\zeta^2) + \cdots + g(\zeta^{p-1})を計算すると,左辺はf(1)^{p-1} + (p-1) f(\zeta)f(\zeta^2) \cdots f(\zeta^{p-1})となる.なぜなら集合\zeta,\zeta^2,\ldots,\zeta^{p-1}\zeta\zeta^k(1 \leq k \leq p-1)に置き換えても集合として不変だからである.

右辺を計算すると,指数kpで割り切れない項b_k x^kの総和は,\zetaの性質から0となり,指数kpで割り切れる項b_k x^kの総和は,p個のb_kの和となり,pで割り切れる.従って
f(\zeta)f(\zeta^2)\cdots f(\zeta^{p-1}) \equiv f(1)^{p-1} \pmod{p}
が成り立つ.これで補題は証明された.

さて円分多項式x^{p-1} + x^{p-2} + \cdots + x + 1が二つの定数ではない整数係数多項式f(x),g(x)の積に分解されたとする.このとき
f(1)g(1) = pとなる.f(1),g(1)は整数でp素数ゆえ,f(1),g(1)のいずれか一方は1,-1のいずれかとなる.今f(x)f(1) = \pm 1となる多項式とする.f(x)は円分多項式の因子であることから,\zeta,\zeta^2,\ldots,\zeta^{p-1}のいずれかを根に持ち,それゆえf(\zeta)f(\zeta^2)\cdots f(\zeta^{p-1}) = 0となる.

これとf(1) = \pm 1であること,そして補題合同式を考慮すると
0 = f(\zeta)f(\zeta^2) \cdots f(\zeta^{p-1}) \equiv f(1)^{p-1} \equiv \pm 1 \pmod{p}
となり矛盾である.従って円分多項式x^{p-1} + x^{p-2} + \cdots + x + 1が既約であることが示された.(証明終わり)

\zetaが持つ対称性をうまく利用した証明ですね.