前回の記事で体の生成元,および共役数を定義しました.しかしこの定義には一つ問題があります.
を有理数体の代数拡大とし,を体の生成元とします.の次数をとします.ヒルベルトは体の数の共役数を次のように定義したのでした.
数を有理数を用いて
と表し,の共役数を
と定義します.ここではが満たす有理数上の最小多項式の別の根です.
これのどこが問題かというと,体の生成元の取り方は一通りには定まらないということです.例えばを体の別の生成元だとしましょう.このときを用いて作られた数の共役数はを用いて作られた共役数と等しくなるかどうかは証明が必要な事柄です.
今回の記事ではこのことを考えていきます.
目標:を用いて作られた共役数とを用いて作られた共役数は一致するか?
補題1:,を最小多項式が等しい代数的数とする.
有理数係数多項式をとる.このとき有理数を用いて
となるならば
とできる.
正直に告白すると直感的に明らかなこの補題をどうすれば厳密に証明できるかわかりませんでした.証明になっているかどうかわからないものを書いておきます.
証明:の最小多項式をとすると.がそれぞれ同型.をで計算し,それをに写せばよい.
は体の生成元でしたので,有理数を用いて
とできます.
ここでをで定義します.このとき補題1からは同じ最小多項式を満足することが分かります.つまりは互いに共役の関係にあることが分かりました.
とします.ここでを軸に共役数を作ると,となります.
とすると
となります.従って
となり,これはを軸にして作った共役数と等しくなることが分かりました.