名前のない定理

マニアックな数学

自由研究 ヒルベルトの数論報告を読む #5

セクション3に入ります.タイトルは「数のノルム,Differente,判別式,体の基底」となっています.

代数的数\alphaのノルムN(\alpha)を共役数との積で定義します.\alphaの共役数を\alpha',\alpha'',\ldots,\alpha^{(m-1)}
としたときノルムは
N(\alpha) = \alpha \alpha' \alpha'' \cdots \alpha^{(m-1)}
と定義されます.

次にDifferenteというものを定義します.高木貞治先生の「代数的整数論」では共役差積,あるいは単に差積と訳されています.\alphaのDifferente\delta(\alpha)
\delta(\alpha) = (\alpha - \alpha')(\alpha-\alpha'')\cdots ( \alpha- \alpha^{(m-1)})
で定義されます.ここでヒルベルトは"Ferner nenne ich das Product -- die Differente der Zahl \alpha"(さらに私はこの積を数\alphaのDifferenteと名付ける.)と言っています.「私が名付ける」と言っているのでDifferenteという概念は当時存在しなかっただろうことが伺えます.

代数的数\alphaの判別式d(\alpha)d(\alpha) = \prod_{i < j} ( \alpha^{(i)} - \alpha^{(j)})^2で定義します.

続いて「数\alphaの判別式あるいは差積が0と異なる」ことと「\alphaが体の生成元であること」が同値であることが証明なしに記されています.

定理5:m次の体にはm個の整数\omega_{1},\ldots,\omega_{m}が存在して,体の任意の整数\omegaは形式
\omega = a_1 \omega_1 + \cdots + a_m \omega_m
で表現されうる.ここでa_1,\ldots,a_mは有理整数である.

整基底の存在の定理ですね.