「体の無限個の代数的整数の集合が,任意の線形結合が再びその集合に属するという性質を持つとき,この集合をイデアルという.ここでは体の代数的整数である.」
イデアルには基底が存在することが定理6の内容です.
「定理6:イデアルに対し,個の代数的整数(は体の次元)が存在して,イデアルの数が線形結合
で一意に表される.ここでは有理整数である.」
イデアルを生成元で表示することが導入されます.
「は個の数であり,イデアルのすべての数が体に属する代数的整数を係数とするの一次結合で表現されるとき,私は短くと書く.」
ここで一度ヒルベルトを追うのを中断し,次のような問題を立ててみました.
問題:生成元表示されたイデアルの基底を求める方法を見出せ.
ある数がイデアルに属するかどうかを決定する問題は,生成元表示だとやりにくいのでこのような問題を立てました.
解答:体の整基底をとする.をの線形結合で表す.
係数は有理整数である.この係数をもとに行列を作る.
この行列に列の基本変形を行う.残った列
からでない列を取り出し,などを作ると,これらのがイデアルの基底となる.
証明:イデアルの数を整基底で表示する.
このときはある有理整数の組を用いて
と表現できる.すなわち
が成り立つ.列の基本変形を施すことは基本行列を右からかけることに等しい.すべての基本変形を行ったときの基本行列をとすると
となる.
は有理整数係数の可逆行列なので,上の式を満たす有理整数の組が存在することと,
なる有理整数の組が存在することは同値.ここでを用いた.
この式からイデアルの任意の数はの有理整数係数の一次結合で表現できる.従ってこのがイデアルの基底である.(証明終わり)
熟練した人から見れば簡単な問題でしょうが,手こずってしまいました.これで生成元表示されたイデアルを基底表示に変形することができます.ある数がイデアルに属するかどうかを決定する問題は,基底表示を用いるほうが楽です.