定理5は整基底の存在定理でした.この証明を読むとを体の生成元,を体の次元,を判別式,を整基底とすると
各は
と表現されることが分かります.ここでは有理整数です.
今回はこの定理を愚直に用いて具体的な体の整基底を決定してみます.
例:として体の整基底を決定する.
初めにの最小多項式を求める.
を計算し,の線形結合であらわす.と仮定し,の係数に関して連立一次方程式を立ててそれを解くと,がの最小多項式と分かる.
この最小多項式の他の根は
となる.のDifferenteはとなる.
の判別式はDifferenteのノルムなのでこれを計算して,となる.定理5の証明から体の整数は
の形をしていることが分かる.
どの形の数が整数になるかは次のようにして決定する.まずは有理整数を用いてと書き直せるので,が整数になる条件を決定すればよい.またのうち整数があったとき,適当に有理整数倍をすればの形式のうちに整数があることになる.さらには整数なので,それらを適切に差し引けば,はのいずれかとしてよい.そこでまずこの分母がの形式の中で整数になるものを探す.
総当たりで探索するとが整数であることが分かる.
同様に形式の中で整数になるものを探す.ここでちょっとだけ面白い計算方法を発見したので紹介する.数をであらわす.
補題1:であるとき
が整数であることと が整数であることは同値.
補題2:が整数,が有理整数のとき,
数は整数である.
これらは定義より明らか.
またある代数的数が整数ならば,その共役も整数であることを用いて次のような計算ができる.
数が整数かどうか調べよう.このとき共役も整数となる.さらにこれらを倍したもの
も整数となる.これらを引き算していくと
も整数となる.
今となるので,もしが整数だとするとも整数となり矛盾である.従っては整数でない.
この計算はに関する最小多項式を求めることなく容易に行える.さらにの具体的な数字に影響されない.よってガロア群などの構造が同じであればはすべて整数でないことが分かる.
長くなったので記事を分割します.このことを応用するとを有理素数としたとき,の整数環について何らかの情報が得られそうです.具体的にはを奇素数とするとき,は整数となり得ない.(追記:トレースをとることで簡単に示せるそうです)