名前のない定理

マニアックな数学

tan(x) = xの根について3

前回の記事
box-white.hatenablog.com
\tan(x) = xの正の根の無限級数を求めました.ここでは別角度から問題に迫ってみましょう.アダマール因数分解定理を既知とします.

まず,次の二つの補題を証明します.

補題1
複素変数の方程式z \cos(z) - \sin(z) = 0の解は実軸の上にしかない.
証明:z\cos(z) - \sin(z) = 0を指数関数を用いて表現しなおす.
z \dfrac{e^{iz} + e^{-iz}}{2} - \dfrac{e^{iz} - e^{-iz}}{2i} = 0
分母を払ってe^{iz}を乗じ,変形していくことで
(z+i)e^{2iz} =-(z-i)
となる.
e^{2iz} = \dfrac{i-z}{i+z}とし,両辺の絶対値を取る.z = x + iyと置く.x,yは実数である.すると
e^{-2y} = \dfrac{x^2+(y-1)^2}{x^2+(y+1)^2}
となる.絶対値を取る前の等式から
e^{-2y} \cos(2x) = \dfrac{1-x^2-y^2}{x^2 + (y+1)^2}
e^{-2y}\sin(2x) = \dfrac{2x}{x^2+(y+1)^2}
となる.この二つの方程式をそれぞれ二乗し,足し合わせる.\cos^2(2x)  + \sin^2(2x) = 1より,
e^{-4y} = \dfrac{(1-x^2-y^2) + 4x^2}{(x^2+(y+1)^2)^2}
となる.以前得られたe^{-2y}の等式から
(1-x^2-y^2)^2 + 4x^2 = (x^2 + (y-1)^2)^2
が言える.これを式変形し,因数分解すると
y( 4(y-1)^2 + 4x^2) = 0
となる.(x,y) = (0,1)は元の方程式の解ではないので,もし解があるならy=0であること,すなわち解は実軸の上にしかないことが分かった.(証明終わり)

補題2
整関数z\cos(z) - \sin(z) = 0は位数1の奇関数である.
証明:\max_{|z| = R} z \cos(z) - \sin(z) \leq \max_{|z| = R}z\cos(z) +  \max_{|z| = R} \sin(z) \leq 2 Re^{R}
である.よって位数\lambda\lambda = \limsup_{R \to \infty} \dfrac{\log \log \max_{|z| = R} f(z)}{\log R} \leq 1
であり,z = iRを考えることで\lambda = 1であることが分かる.(証明終わり)

これら二つの補題アダマール因数分解定理を用いて,f(z) = z \cos (z) - \sin(z)は次のように因数分解できます.
f(z) = z^3 e^{a + bz} \prod_{k = 1}^{\infty}\left( 1 - \dfrac{z}{\rho_k} \right) e^{\frac{z}{\rho_k}} \left(1 - \dfrac{z}{-\rho_k} \right) e^{-\frac{z}{\rho_k}}
ここでf(z)が奇関数なのでb = 0がわかり,f(z) = z\cos(z) - \sin(z)テイラー展開を考えることで
f(z) = -\dfrac{1}{3}z^3 \prod_{k=1}^{\infty} \left( 1 - \dfrac{z^2}{{\rho_k}^2 } \right)
とわかります.
f(z)テイラー展開
f(z) = - \dfrac{z^3}{3} + \dfrac{z^5}{30} \cdots
で始まるので
\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^2} = \dfrac{1}{10}
が言えました.

テイラー展開の高次の項まで見ることで\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^{2n}}の値も計算できます.テイラー展開7 次の項をa_7と表すと
\left( \sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^2} \right)^2 - \sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^4} = 2 a_7
などから\sum_{\rho} \dfrac{1}{\rho^4}なども計算でき,その結果は以前の結果と一致します.