名前のない定理

マニアックな数学

自由研究 グレブナー基底と仮想次元2

前回の記事の続きです.
box-white.hatenablog.com

前回の記事で次のような問題が提示されました.
問3:イデアルIの生成元を適切に選んで,仮想次元\sigmaに整合的にすることはできるか?

答えは簡単で被約グレブナー基底をつくれば,そのような仮想次元\sigmaをすべて求めることができます.
定理:仮想次元\sigmaを性質AイデアルIの生成元を適当に選べば,仮想次元\sigmaに対して整合的になる」を満たすものとする.このときIの被約グレブナー基底は仮想次元\sigmaに対して整合的である.すなわち性質Aを持つような仮想次元をすべて求めることができる.
証明:性質Aの生成元をとり,そこからイデアルIの被約グレブナー基底を作ると,それは\sigmaに対して整合的である.(証明終わり)

さらに次の定理も成り立ちます.
定理:ある単項式順序に関するイデアルIの被約グレブナー基底g_1,\ldots,g_sとする.別の単項式順序に関するイデアルIの被約グレブナー基底g'_1,\ldots,g'_tとする.もし仮想次元\sigmag_1,\ldots,g_sに対して整合的ならば,g'_1,\ldots,g'_tに対しても整合的である.

証明:グレブナー基底g'_1,\ldots,g'_tg_1,\ldots,g_sから作ることができる.g_1,\ldots,g_sは仮想次元\sigmaに対して整合的であるから,g'_1,\ldots,g'_tも整合的である.(証明終わり)

この定理から仮想次元\sigmaが被約グレブナー基底に対して整合的であるという性質は,単項式順序によらない性質だと分かりました.さらに被約グレブナー基底は単項式順序に関して一意なので,被約グレブナー基底が仮想次元\sigmaに対して整合的であることはイデアルIの選択だけに依存する性質になります.そこで次のような定義が成立します.

定義:イデアルIが物理イデアルであるとは,その被約グレブナー基底が仮想次元\sigmaに対して整合的であることとする.

この物理イデアルは様々な推移法則を満たします.

定理:I,Jを仮想次元\sigmaに対する物理イデアルとする.このとき
(i)和I+J\sigmaに対する物理イデアル.
(ii)積IJ\sigmaに対する物理イデアル.
(iii)交わりI \cap J\sigmaに対する物理イデアル

証明:I,Jが物理イデアルなので,仮想次元\sigmaに整合的な生成系f_1,\ldots,f_r,g_1,\ldots,g_sを取ることができる.I+Jの生成系としてf_1,\ldots,f_r,g_1,\ldots,g_sを取ることができる.これは明らかに仮想次元\sigmaに対して整合的なので,被約グレブナー基底\sigmaに対して整合的.(i)の証明が終わった.(ii)の証明も同様.
I \cap Jグレブナー基底tf_1,\ldots,tf_r,(1-t)g_1,\ldots,(1-t)g_sグレブナー基底のうちtを含まないもの.今tを無次元量ととらえることでtf_1,\ldots,tf_r,(1-t)g_1,\ldots,(1-t)g_sは仮想次元\sigmaに対して整合的.それゆえ出来上がるグレブナー基底\sigmaに対して整合的.(証明終わり)

なんだかよくわからない概念が定義できました.

2023/4/21追記
このイデアルには重み付き斉次イデアルという名前がついていることが分かりました.