名前のない定理

マニアックな数学

大学では教えてくれない数学 ガウス和とガウステーブル6

今回の目標は以下の定理になります.
定理1:p素数とし,整数A,B,CABC \not \equiv 0 \pmod{p}なるものとする.合同方程式AX^3 + BY^3 + C Z^3 \equiv 0 \pmod{p}X \equiv 0 ,Y \equiv 0 ,Z \equiv 0 \pmod{p}でない本質的に異なる解の個数はp+1に近く,その誤差は2\sqrt{p}で抑えられる.

証明のために以前の記事の記号を用います.ここでおさらいしておきましょう.
ガウス和とガウステーブル第一回
box-white.hatenablog.com
前回
box-white.hatenablog.com

pの原始根をgとする.
pに関する剰余g^3,g^6,\cdotsの集合を(0),
g^1,g^4,\cdotsの集合を(1),
g^2,g^5,\cdotsの集合を(2)とする.

自然数(ij)合同式\alpha + \beta + 1 \equiv 0 \pmod{p}ただし\alpha \in (i),\beta \in (j)の解の個数とする.

このとき3で割って1余る素数p =3n+1について
9(00) = 3n-7 + a-b
9(01) = 9(10) = 9(22) = 3n-1 -2a - b
9(02) = 9(11) = 9(20) = 3n -1 + a + 2b
9(12) = 9(21) = 3n+2 + a + b
が成立する.ただしa,ba^2 + ab + b^2 = pを満たす整数の一組とする.

定理の証明に入る前に「本質的に異なる解の個数」を正確に定義します.二組の解(X,Y,Z) ,(X',Y',Z')に対してある自然数\lambda \not \equiv 0 \pmod{p}が存在して,X \equiv \lambda X' , Y \equiv \lambda Y' , Z \equiv \lambda Z'となるとき(X,Y,Z)(X',Y',Z')は同値であると定義します.同値にならないような解の個数を「本質的に異なる解の個数」と言うことにします.

ここまでの準備の下で定理を証明していきましょう.

証明:A \in (0) , B \in (0) , C \in (0)のとき
X \not \equiv 0 , Y \not \equiv 0 ,Z \not \equiv 0となる解の個数を数える.合同式AC^{-1} \left(\dfrac{X}{Z}\right)^3 + (BC^{-1}\left( \dfrac{Y}{Z} \right)^3 + 1 \equiv 0と変形される.ここでAC^{-1} \in (0),BC^{-1} \in (0)である. 条件付き合同式1 + \alpha + \beta \equiv 0 ( \alpha \in (0),\beta \in(0))(00)個の解の一つ一つに対し 9つの本質的に異なる解(X,Y,Z)が存在することになる.

X \not \equiv 0 , Y \not \equiv 0 , Z \equiv 0となる解の個数を数える.合同式AX^3 + BY^3 \equiv 0となる.A \in (0) , B \in (0)よりこれには解が存在し,本質的に異なるものは3つであることが分かる.

X \equiv 0 , Y \not \equiv 0 , Z \not \equiv 0の場合もX \not \equiv 0 , Y \equiv 0,Z \not \equiv 0の場合も同様にそれぞれ3個の本質的に異なる解が存在することが分かる.
それゆえ解の個数EE = 9s + 9 = 3n + 2 + a- b= p+ 1 + a-bとなる.よって| E - (p+1) | = a-bとなる.
さてa^2 + ab + b^2 = pであったので,\dfrac{3}{4}(a + b)^2 + \dfrac{1}{4} (a-b)^2 = pとなり
\dfrac{1}{4} ( a-b)^2 \leq pつまり|a-b| \leq 2 \sqrt{p}が言える.


その他の場合も同様に計算することができ,定理を証明することができる.(証明終了)

p = 4n+1ガウステーブルを考えると合同式Z^2 \equiv X^4 + AY^4の根の個数についても同様の議論ができます.

今回でガウス和とガウステーブルの連載は終了します.ガウス和の議論を用いればガウステーブルなるものはいらないのではないかと思った人も多いかもしれません.しかしガウステーブルを考えることによって今までの定理をもっと広い領域,有限体に関する定理に拡張することができます.有限体にも原始根が存在するためです.有限体においてガウス和を利用しようとすると壁にぶち当たることがすぐにわかると思います.ここでガウステーブルの議論が純粋に代数的なものであったことを想起すると,同種の議論が何も考えずに有限体に適用できることが理解できます.ここにガウステーブルの意義があると思っています.

ご高覧ありがとうございました.