名前のない定理

マニアックな数学

代数的整数論の応用2

前回の記事でディオファントス方程式

y^n = x^2 + 1

についてn= 3に限定して考察しました.今回は一般のnについて考えていきましょう.

 

まずnが偶数であるときを考察します.n = 2kとすると

y^{2k} = x^2 + 1 \leftrightarrow y^{2k}-1 = x^2

となります.左辺は因数分解ができて(y^k-1)(y^k+1) = x^2となります.y^k-1,y^k+1には2しか共通因数がありません.そこで可能性として

y^k-1 = a^2,y^k+1 = b^2

y^k-1 = 2a^2,y^k+1 = 2b^2

のみになります.ここでa,b \in \mathbb{Z}です.二番目の式から一番目の式を引くことによって,b^2-a^2 = 2,b^2-a^2 = 1の二通りの式が得られます.左辺を因数分解して(b-a)(b+a) = 2,(b-a)(b+a) = 1となりますが,2の整数因子が2,1,-1,-2しかないことなどを用いるとこれは有限個の可能性しかありません.これらをしらみつぶしに検討していくと,b = \pm 1 ,a = 0のみが答えになり,ここから初めの方程式はy = \pm1 ,x = 0のみを整数解に持つことが分かりました.

 

よって以下nを奇数として考えます.

 

初めにxが偶数で,yが奇数であることを示します.xが奇数だとすると,ある整数kを用いてx^2 + 1 = 4k^2 + 4k + 2となります.これは4で割ると2あまる整数です.ところがy^nは奇数であるか,4で割り切れる整数のどちらかになるのでこれは矛盾です.従ってxは偶数でyは奇数であることが示されました.

ディオファントス方程式を因数分解します.(x+i)(x-i) = y^nとなります.次は(x+i),(x-i)ガウス整数の領域において互いに素であることを示します.(x+i),(x-i)の共通因数はその差(x+i)-(x-i) = 2iを割ります.共通因数は2の因子であることが分かりました.ところがxは偶数でしたので,(x+i)のノルムは奇数になります.もし2の因子を持っていたとするとノルムが偶数であるはずなので矛盾です.(x+i),(x-i)は互いに素であることが示されました.

 (x+i),(x-i)が互いに素であったことと,ガウス整数の一意分解性からある整数a,b,cが存在してx + i =i^c (a+bi)^n,かつy = a^2 + b^2となります.yは奇数なのでa,bのいずれか一方が偶数で,もう片方が奇数となります.

c = 0の場合を考えましょう.両辺の虚部を比較すると

1 = \binom{n}{1}a^{n-1}b - \binom{n}{3}a^{n-3}b^3 + \cdots + (-1)^{\frac{n-1}{2}}b^n

となります.右辺はbで割り切れるので,b = \pm 1です. 

b = 1の場合を考えましょう.a,bの片方が偶数だったので,aは偶数になります.このとき

1 = \binom{n}{1}a^{n-1} - \binom{n}{3}a^{n-3} + \cdots +(-1)^{\frac{n-3}{2}}\binom{n}{n-2}a^2 + (-1)^{\frac{n-1}{2}}

です.最後の項が-1だった場合,2 = a^2 dとなりますが右辺は4で割り切れるので矛盾です.以下最後の項は1であるとします.

ここでa = 0以外の整数解を持たないことを示します.a\neq 0とすると,両辺をa^2で割って

0 = \binom{n}{n-1}a^{n-3} - \binom{n}{3}a^{n-5} + \cdots + \binom{n}{2}

となります.ここで同時に二項係数の性質を用いました.さてk \geq 2のとき

a^{2k-2}\binom{n}{2k}に含まれる2のベキ指数は\binom{n}{2}に含まれる2のベキ指数より真に大きいことを示します.

a^{2k-2}\binom{n}{2k} = \frac{n(n-1)}{1\cdot2} \times \frac{(n-2)\cdots (n-2k+1)}{1\cdot2 \cdots (2k-2)} \times \frac{1\cdot 2 \cdot a^{2k-2}}{(2k-1)2k}

です.中央の項は整数です.ここで(kに含まれる2のベキ指数)はkより小さく,k \leq 2k-2であることを用いると,上式最後の項は分子が2のべきで割り切れる既約分数であることが分かります.よってa^{2k-2}\binom{n}{2k}に含まれる2のベキ指数は\binom{n}{2}に含まれる2のベキ指数より真に大きいことが示されました.

ここから0 = \binom{n}{n-1}a^{n-3} - \binom{n}{3}a^{n-5} + \cdots + \binom{n}{2}

は不可能であることになり,a=0しかないことが分かりました.

 

他のケースも同様の考察を行うことで,x = 0,y = 1のみがy^n = x^2+1の整数解であることが分かりました.