名前のない定理

マニアックな数学

大学では教えてくれない数学 ガウス和とガウステーブル2

第一回
box-white.hatenablog.com


今回の目標は次の定理になります.

定理:pを3で割って1余る素数とする.このとき整数a,bのうち等式p = a^2 + ab + b^2を成立させるものが存在する.

例:7 = 2^2 + 2\cdot 1 + 1^2,13 = 3^2 + 3 \cdot 1 + 1^2,31 = 6^2 + 6\cdot(-1) + (-1)^2

証明
 pを3で割って1余る素数とします.p = 3n + 1.pによる剰余を考えると,そこには原始根gが存在します.(原始根の意味や存在の証明については様々な場所で解説がなされているので省略します.)さてp0以外の3n個の剰余を次の三つのグループに分けましょう.

 

グループA: 原始根で表示したときそのべき指数が3で割れるもの.

g^0 , g^3, g^6,\cdots

グループB: 原始根で表示したときそのべき指数が3で割って1余るもの

g^1,g^4,g^7,\cdots

グループC:原始根で表示したときそのべき指数が3で割って2余るもの

g^2,g^5,g^8,\cdots

 

 例えばp = 7として考えてみましょう.原始根の一つは3なので

g^0,g^1,g^2,g^3,g^4,g^5 = 1,3,2,6,4,5

となり

グループA:{1,6}

グループB:{3,4}

グループC:{2,5}

となります.

 

 グループA,B,Cの間には次のような関係があります.

補題1:\alpha \in A,\beta \in B ,\gamma \in Cならば

それぞれの積について\alpha_{1}\alpha_{2} \in A , \alpha\beta \in B , \alpha \gamma \in C ,\beta_{1}\beta_{2}\in C , \beta\gamma \in A , \gamma_{1}\gamma_{2} \in B

となる.証明は原始根表示に戻ればすぐなので省略します.

 

 さて,次のような自然数係数の行列を作ります.

第一行第一列の要素は「Aの数のうち+1すると再びAに属するもの」の個数(これを(AA)と表わします.)

第一行第二列の要素は「Aの数のうち+1するとBに属するもの」の個数(これを(AB)と表わします.)

第二行第一列の要素は「Bの数のうち+1するとAに属するもの」の個数

などとします.

 

再度p=7で考えてみましょう.(AA)は「Aの数のうち+1すると再びA]に属するもの」の個数でした.グループAは1,6のみで構成されているためこれは存在しない,つまり(AA) = 0であることになります.同様に(AB)はグループAが1,6,グループBが3,4であるためこれも存在しない,つまり(AB) = 0であることになります.これを繰り返すと次の行列が得られます.

\left(

\begin{array}{ccc}

    0 & 0 & 1 \\

   0 & 1 & 1 \\

   1 & 1 & 0 

  \end{array}

\right)
この行列に名前を付けておきましょう.これをここでは「ガウステーブル」と言うことにします.ガウスがその論文の中で使ったことに由来します.

この行列には次のような性質があります.
補題2:ガウステーブルは対称行列である.
実際,剰余-1はグループAに属するので,
 (AB) = n\{(\alpha,\beta) | \alpha\in A ,\beta \in B ,1 + \alpha + \beta \equiv 0 \}
(BA) = n\{(\beta,\alpha) | \beta \in B,\alpha \in A ,1 + \beta + \alpha \equiv 0 \}
  となり(AB) = (BA)などとなります.

補題3:(AB) = (CC),(AC) = (BB)が成り立つ.
実際,補題1から(1 + \alpha + \beta)\beta^{-1} = \gamma + \gamma' + 1の関係があり,左辺のカッコの中から右辺へ,右辺から左辺の括弧の中へ自由に移行できるので,(AB) = (CC)が言え,同様に(AC) = (BB)などが言えます.

補題2,3を用いるとガウステーブルの自由な元の数は4個であることが分かり,以下の通りとなります.

\left(

\begin{array}{ccc}

    s & t & u \\

   t & u & v \\

   u & v & t 

  \end{array}

\right)

まだ続きます.長いですが頑張りましょう.

補題4:s+t+u = n-1,t+u+v = n,v = s+1の三式が成り立つ.
証明:-1 \in Aであるから第一行の総和はグループAに含まれる剰余の個数より1少ない.(-11を足すと0になりグループA,B,Cのいずれにも属さないため.)グループAの剰余の総数はnなので,s+t+u = n-1
第二行の総和をとることでt+u+v = nも言える.v = s+1は二つの式を引き算すればよい.

補題5:sv + t^2 + u^2 = tu + uv + vt
証明:1 + \alpha + \beta + \gamma \equiv 0 \pmod{p},\alpha \in A , \beta \in B ,\gamma \in Cの解の個数を二通りに評価する.

1 + \alpha \in Aのとき\alpha' + \beta + \gamma \equiv 0これを\alpha'で割ると
1 + ({\alpha'}^{-1} \beta) + ({\alpha}^{-1} \gamma) \equiv 0となり(\alpha^{-1}\beta) \in B,(\alpha^{-1}\gamma) \in Cであるから1 + \alpha \in Aのときの解の個数は(AA)\times (BC) = sv
1 + \alpha \in Bのとき,1 + \alpha \in Cのときも同様に考えて合同式の解の個数は
sv + t^2 + u^2*1

1 + \beta \in Aのとき\alpha' + \beta + \gamma \equiv 0.これを\alpha'で割ると
1 +({\alpha'}^{-1}\alpha) + ({\alpha'}^{-1}\gamma) \equiv 0となり(\alpha^{-1}\alpha) \in A,(\alpha^{-1}\gamma) \in Cであるから
1 + \beta \in Aのときの解の個数は(BA)\times (AC) = tu
1+\beta \in Bのとき,1 + \beta \in Cのときも同様に考えて合同式の解の個数は
tu + uv + vt

この両者は等しいのでsv + t^2 + u^2 = tu + uv + vt

いよいよ目的であった定理を証明しましょう.
定理:pを3で割って1余る素数とする.p = 3n + 1.このとき整数a,bが存在してp = a^2 + ab + b^2が成り立つ.
証明:補題5からsv + t^2 + u^2 = tu + uv + vt.補題4からv = s + 1これを代入して
v^2 + t^2 + u^2 - tu -uv - vt = v
\dfrac{1}{2}(v-t)^2 + \dfrac{1}{2}(t-u)^2 +\dfrac{1}{2}(u-v)^2 = v
 v + t + u = nより\dfrac{1}{2}(v-t)^2 + \dfrac{1}{2}(t-u)^2 +\dfrac{1}{2}(u-v)^2 = v = n-t-u \\= n + (v-t) + (v-u) - 2v
ここでv-t = \alpha,t-u = \beta , u-v = \gammaとすると,(\alphaはグループAの数と言う意味ではない)
\dfrac{1}{2}\alpha^2 + \dfrac{1}{2}\beta^2 + \dfrac{1}{2}\gamma^2 = n + \alpha - \gamma -2v
v = \dfrac{1}{2}(v-t)^2 + \dfrac{1}{2}(t-u)^2 +\dfrac{1}{2}(u-v)^2
を用いれば,\dfrac{3}{2}\alpha^2 + \dfrac{3}{2}\beta^2 + \dfrac{3}{2}\gamma^2 + \gamma - \alpha = n
両辺を3倍して1を足すと
\dfrac{9}{2}\alpha^2 + \dfrac{9}{2}\beta^2 + \dfrac{9}{2}\gamma^2 + 3\gamma - 3\alpha + 1 = 3n + 1 = p
\beta = -\alpha - \gammaから\dfrac{1}{2}(3\alpha-1)^2 + \dfrac{1}{2}(3\alpha-1 + 3 \gamma + 1)^2 + \dfrac{1}{2}(3 \gamma + 1)^2 = p
3\alpha-1 = a, 3\gamma +1 = bとすれば
a^2 + ab + b^2 = pが言えた.
次回
box-white.hatenablog.com

 

*1: 8/23追記:-1 \in Aなので,1 + \alpha \equiv 0となることがあるが,このとき\beta + \gamma \equiv 0 \pmod{p}となり,この方程式には解が存在しない.