名前のない定理

マニアックな数学

多項式におけるガウスの定理

早速ですが問題です.

 

p,qを二つの正の整数とするとき方程式

x ^ { p +q} + x ^ {p+q-1} + \cdots + x ^ {p+1} + x ^ p - x ^ {p-1} - x ^ { p-2} - \cdots -x -1 = 0は正の根をちょうど一つだけ持つ.

 

さあ、みんなで考えよう.

 

今回紹介するGauss の定理を使えばこの問題は一発で解けます.定理を紹介する前に多項式の「符号交代数」を定義します.

 

多項式 f(x)の符号交代数とはf(x)の係数を高次の項から順番に見ていったとき,符号が何回入れ替わるかを数えたものです.例えば f(x) = x ^ 3 + 2 x ^ 2 - x +1の場合,係数を高次のものから順番に見ていくと1,2,-1,1となるので二回符号が入れ変わっています.この場合の符号交代数は2です.g(x) = x^4 - 2 x ^2 + 1のように途中に係数が0となる項があるときはそれを飛ばして考えます.つまりこの場合,係数は1,-2,1なので符号交代数は2です.

 

Gaussの定理とは次のようなものです.

 

f(x)を実数係数の多項式とする.このとき方程式f(x) = 0の正の根の個数は多項式f(x)の符号交代数と等しいかそれより少ない.

 

証明は簡単なのでここでしておきましょう.多項式f(x)複素数の世界で一次式に分解されます.つまりz_1,z_2,\ldots,z_nをある複素数として

f(x) = (x - z_1)(x-z_2)\cdots ( x - z_n)

 となります.ここで因子(x-z)の中からz虚数と負の実数であるものをすべて集め積を作ります.その積をg(x)とするとg(x)は実数係数の多項式になります.

  k \gt 0とし(x-k)g(x)の係数を順にみていきましょう.最高次の符号は正です.g(x)の係数の符号が正から負に変わる箇所に注目します.このときA,B \gt 0,a \gt bとして g(x) = \cdots A x ^ a - B x ^ b  \cdotsとできます.ここに(x-k)をかけてやると,b = a - 1のときもそうでないときもx^aの係数は負であることが分かります.つまりg(x)の係数が正から負に変わるとき(x-k)g(x)には係数の符号が負に確定する項がちょうどその場所に存在します.

 

同様にg(x)の係数が負から正に変わるとき(x-k)g(x)には係数の符号が正に確定する項がちょうどその場所に存在することもわかります.

 

最後の項は符号が反転します.最高次の項が正に確定することと,最後の項も係数が確定することに注意すると,この論理によって(x-k)g(x)の符号が確定する項の個数はg(x)の符号が交代する箇所より2だけ多く存在します.

(x-k)g(x)の符号が確定する項を降順に見ていくと,正負が交互に現れていることが分かります.間に符号が確定しない項がいくつあるかわかりませんが,符号が確定する項の間に(x-k)g(x)の係数の符号は少なくとも一回交代していることになります.

これらのことを統合すると,(x-k)g(x)の符号交代数はg(x)の符号交代数より少なくとも1多いことになります.

 

これを繰り返せばf(x)の符号交代数は正の根の個数と等しいかそれより多いことが分かります.これで定理は証明されました.

 

初めの問題ではf(x) = x ^ { p +q} + x ^ {p+q-1} + \cdots + x ^ {p+1} + x ^ p - x ^ {p-1} - x ^ { p-2} - \cdots -x -1の符号交代数は1なので,Gaussの定理より正の根は高々一つしかないことが分かります.f(0) = -1かつf(\infty) \gt 0なので,中間値の定理よりf(x) = 0は少なくとも一つ正の根を持つことが分かります.以上のことから方程式f(x) = 0は正の根をちょうど一つ持つことが示されました.